研究課題/領域番号 |
18K02261
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研究機関 | 東京家政大学 |
研究代表者 |
森高 初惠 東京家政大学, 生活科学研究所, 研究員 (40220074)
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研究分担者 |
峯木 眞知子 東京家政大学, 家政学部, 教授 (30129283)
澤田 めぐみ 東京家政大学, 家政学部, 教授 (30291339)
山中 健太郎 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (90359662)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 泡沫食品 / エスプーマ法 / 膨化率 / 豆乳 |
研究実績の概要 |
平成30年度は食品にガスを注入して微小泡沫を形成させる泡沫食品の原料として豆乳を用い、電動泡立て器により形成された泡沫と比較することによりエスプーマ法による泡沫食品の特徴について検討した。 豆乳中の気泡の形成を良くするために、市販のトロミ剤を微量用いた。トロミ剤を豆乳に添加すると、トロミ剤無添加試料の粘性率はせん断速度1s-1で7mPaであったが、0.9%のトロミ剤を添加すると粘性率995mPaまで増加した。同様にトロミ剤を0%から0.9%に変化させると、角周波数1rad/sで貯蔵弾性率では500倍前後まで、損失弾性率は100倍前後まで増加した。エスプーマ法では亜酸化窒素ガスを注入した後、容器を振盪することにより泡沫の形成が促進される。平成30年度に使用した試料では、振盪回数を増加させることにより試料の膨張率は急激に増加したが、泡沫の形成は最大値に達した後はプラトーとなった。一方、電動泡立て器により発泡させた試料の膨張率は撹拌時間の増加に従い緩慢に増し、増加の程度はエスプーマ法と比較して低かった。トロミ剤の泡沫形成への影響については、電動泡立て器ではトロミ剤の添加により膨張率は急激に低下し、トロミ剤の濃度が増加するとさらに緩慢に低下し続けた。また、エスプーマ法においては、トロミ剤の添加により膨張率は緩慢に増加し、電動泡立て器とは反対の傾向を示した。 発泡させたトロミ剤添加豆乳の一定量をロートに注入し、ロートからの落下速度を測定した結果、電動泡立て器における落下速度は撹拌時間が長いほど、トロミ剤の添加濃度が高いほど遅くなり、その依存性は撹拌時間でより強かった。エスプーマ法においては、落下速度は振盪回数が多いほど、トロミ剤濃度が高いほど遅くなったが、両者に対する依存性は電動泡立て器によるよりはエスプーマ法で極めて強かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は咀嚼・嚥下機能に応じた安全で栄養価の高い泡沫食品の物理的性質やその利用可能性を究明するために、泡沫食品試料を決定し、その試料に対して機器測定や官能評価を行う計画であった。 エスプーマ法による泡沫食品試料として、 ゼラチン、卵白や豆乳などと亜酸化窒素ガスを組み合わせて、エスプーマ法により泡沫食品を調製し、主にその保形性から試料としての適性を検討した。その結果、平成30年度は豆乳に微量のトロミ剤を添加した試料が最適であると判断されたために、トロミ剤添加豆乳を試料として決定した。強制的に亜酸化窒素ガスを封入して形成される泡沫が一般的に行われている空気を抱き込んで形成される泡沫とどのように物理的特性が異なるのか疑問に思われたために、当初計画していなかった電動泡立て器により形成される泡沫を比較対象として検討した。当初の計画では、泡沫食品試料の膨化性を粘弾性測定装置およびテクスチャー測定装置などを用いて測定する予定であったが、エスプーマ法により形成された泡沫の消泡速度が著しく速かったために、これらの測定機器では測定が困難であることが判明した。そこで、柘植らの方法(日本調理科学会誌Vol.43 (1),10ー16(2010))による膨化性と落下速度を計測した。つまり、形成された泡沫中の液体体積に対する気体体積の割合である。しかし、エスプーマ法による泡沫豆乳の調製には時間がかかった上に、1回の調製で1測定値しか得ることができなかったために、測定に膨大な時間を要した。そのために、予定していた官能評価などを平成31年度・令和元年度で実施しなければならない状況となってしまった。しかし、これまでにエスプーマ法により形成された泡沫豆乳の性質が明確となってきたために、今後は泡沫の状態をより詳細に検討することができるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度・令和元年度では平成30年度に続き、エスプーマ法による泡沫形成の特徴を電動泡だて器による泡沫と比較することにより明らかにする。平成30年度は泡沫を形成することにより試料の膨化の程度と泡沫試料のロートからの落下速度により検討したが、十分ではなかった。 平成31年度・令和元年度では泡沫の状態をより詳細に検討するために、まずレーザー走査顕微鏡による観察を行う。レーザー走査顕微鏡ではレーザーを光源として、非接触で大気中にて簡単に表面形状を3次元で計測でき、短時間での測定が可能であるために、泡沫の観察・計量には適していると考えられる。本測定により泡沫の状態を視覚的に明らかにし、さらに泡沫の粒径や粒径分布などを定量的に測定する予定である。併せて、異なる泡沫の口腔内での刺激により、ヒトの知覚強度がどのように変化するのかを、官能評価を用いて7点評価法により明らかにする。測定項目は「形成された泡沫の細かさ」、「舌触りの滑らかさ」、「弾力」、「口腔内でのまとまりやすさ」、「呑み込みやすさ」などとし、特に泡沫食塊の口腔内でのまとまりやすさや呑み込みやすさを中心に検討する。泡沫食品は嚥下困難者のために、嚥下時の安全性を高め、栄養成分の摂取量を高めることが目的である。そこで、超音波パルスドップラー法による咽頭部における食塊の移動をヒトを通して計測し、数量的に明らかにする。超音波パルスドップラー法によりヒトの体内を観察する手法は、安全で非侵襲性であるために広く医学領域では活用されている。本測定により咽頭部における食塊の最大移動速度、平均移動速度および通過時間などを得る予定である。これらの結果と平成30年度に得られた測定結果を合わせて総合的に検討し、エスプーマ法による泡沫食品の特徴を明らかにし、嚥下困難者用食品としての安全性や適用性などについて究明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度では咀嚼・嚥下機能に応じた安全で栄養価の高い泡沫食品の物理的性質やその利用可能性を究明するために、泡沫食品試料を決定し、その試料に対して機器測定や官能評価を行う計画であった。当初の計画では、泡沫食品の膨化性を粘弾性測定装置やテクスチャー測定装置などを用いて測定する予定であったが、エスプーマ法により形成された泡沫の消泡速度が著しく速かったために、これらの機器では測定ができなかった。また、エスプーマ法による泡沫豆乳の調製には時間がかかった上に、1回の調製で1測定値しか得ることができず、測定にも膨大な時間を要し、予定通りに実験が進まなかった。その結果、予定した実験に関する費用を平成31年度・令和元年度に持ち越す結果となった。 平成31年度・令和元年度には泡沫の状態をより詳細に検討するために、レーザー走査顕微鏡による観察を行い、併せて粒径などを定量的に測定する予定である。また、口腔内における異なる泡沫の刺激によるヒトの知覚強度を、ヒトの官能による7点評価法で明らかにする。さらに、超音波パルスドップラー法による咽頭部における食塊の移動をヒトを通して計測し、数量的に明らかにする計画である。 平成30年度に生じた残額は平成31年度・令和元年度に実施する上述の実験費用として、平成31年度・令和元年度の予算と合わせて使用する予定である。
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