研究課題/領域番号 |
18K02273
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
及川 英二郎 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80334457)
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研究分担者 |
田代 美江子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40297049)
渡辺 大輔 埼玉大学, 教育機構, 准教授 (00468224)
艮 香織 宇都宮大学, 教育学部, 准教授 (10459224)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会科における性教育 / 人権 / 交差性 |
研究実績の概要 |
2021年度は、コロナ禍で旅費やテープ起こしで使用できない分の経費を、文献収集やオンライン環境を整備するための物品費にあてるなど、当初の計画を変更せざるを得なかった。文献収集については、ひきつづき“人間と性”教育研究協議会(性教協)関連図書を購入したほか、村瀬幸浩の文献を網羅的に購入した。 また、本年度は『国際セクシュアリティ教育ガイダンス(改訂版)』の詳細な検討と、「社会科教育における性教育の可能性」について考察した。前者については、「人権」と「快楽の性」との関係や、「知識/態度/スキル」の使い分け、「誰にでも人権はある」という記述と「すべての人間は…社会に貢献できる」という記述との矛盾など、『ガイダンス』特有の問題点を具体的に検討することができた。後者については、職場での教育実践演習の授業を利用しながら、地理・歴史・公民分野で取り組み得る性教育の具体例について考察した。性教協設立時においても、社会科教員による積極的な関与や体育教員による社会科的なアプローチが散見され、これは性教協草創期の「失われた可能性」を探るうえで重要な切り口の発見といえる。 さらに本年度は、聞き取り調査を実施した。ただし、コロナ禍のため高齢者を対象にした調査は控えざるを得ず、計画を変更して朝鮮学校での性教育の現状を西東京朝鮮第Ⅰ初中級学校の校長・申俊植氏に、またスクール・ソーシャル・ワーカーの視点について研究代表者と同じ職場の梅山佐和氏に、性教育の観点からうかがった。いずれも『季刊セクシュアリティ』に反映させた(テープ起こしなどの費用は同誌編集部が負担した)。その他、研究分担者を含め、この間の性教育に関わる動向や情勢を中心に、同誌に原稿を多数寄せることができた。特に研究代表者が「戦争と性」に関する視点を整理することができたことは、上記した「社会科教育における性教育の可能性」を深化させるのに役立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響で聞き取り調査が2年間制限されたことは大きい。特に、性教協設立に関わる第1世代は高齢者であり、コロナ感染について細心の注意を要する。 また、研究分担者との打ち合わせや研究会は、オンラインで可能な限り実施したが、対面で得られるはずの気づきや着想など、有形無形の成果が得られなかったことも研究の遅れに影響している。実質的には、作業を単独で行うこととなり、文献調査が主となった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、文献収集を引き続き行う。網羅的な文献収集は今のところ山本直英・高柳美智子・村瀬幸浩の3名のみであり、他の第1世代や第2世代についてはさらなる収集が望まれる。また、聞き取り調査についても、地方サークルの第1世代や、本部の第2世代を中心に可能な限り行っていきたい。これはコロナ禍の状況次第である。 そのうえで、収集した文献を整理し、聞き取り調査を部分的に反映させながら論文「研究序説 戦後日本における性教育運動の歴史(仮)」の執筆を開始する。これは、ゆくゆくは同名の書籍として出版を計画するものであり、その総論として研究分担者とともに執筆するもので、2023年8月に研究代表者の職場の紀要に投稿する予定である。 また、「社会科教育における性教育の可能性」という、今回、研究を進めるなかでたどりついた新たな切り口については、さらに深化・展開させていきたい。「人文社会科学」の視点は、実は、現在の性教協に事実上欠落した視点といってよい。なぜ欠落するに至ったのか。医学や自然科学に偏重した性教育の問題や、家庭科男女共修以後の社会科と家庭科の棲み分けといった教育行政の問題など、多角的な視点から検討する必要がある。また、研究代表者の職場での「教職実践演習」での取り組みや、『季刊セクシュアリティ』誌上での特集企画を通じて(現在、研究代表者は同誌の副編集長であり、研究分担者のうち2にんは同じく副編集長である)、同テーマの必要性や具体的な可能性について発信していくつもりである。 さらに、性教育と人権教育とをつなぐ試みとして、また社会科から性教育に接近する試みとして、研究代表者が現在取り組んでいる各種の授業実践を位置づけ、性教育実践の具体例として考察対象とする。コロナ禍の状況が改善されれば、他の学校(小中高を含む)での性教育の取り組みを調査対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年間のコロナ禍の影響により、予定していた聞き取りができず、謝金やテープ起こしで経費が消化しきれなかった。コロナの状況が不透明なため、今後は計画を変更して文献収集と資料整理、および研究代表者の授業実践に研究趣旨を反映させ、それを録画・録音したものをテープ起こしするなど、性教育実践の現状を記録することで予算を使用する計画である。
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