研究課題/領域番号 |
18K02276
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 晴彦 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (10199789)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | デューイ / ヘーゲル / 弁証法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近年新たに編集と公刊が開始された、ミシガン大学、シカゴ大学、コロンビア大学時代のジョン・デューイの講義ノート、講義録、またその他の未完のデューイの草稿の分析をもとに、デューイ思想の形成過程におけるヘーゲル哲学の影響、特にヘーゲルの弁証法的な思考の影響を探り再評価することにあり、次に、この作業によって、一般に理解されているデューイ思想の中心、探究概念のよりよい理解を目指すことにある。この研究作業には、講義ノート他の資料の収集と分析が不可欠であるが、昨年度では新たな資料の入手にはいたらず、既得の資料、シカゴ大学時代のヘーゲル哲学演習、コロンビア大学時代の倫理学演習をもとに分析を進めた。現時点で明確となった点は、第一に、初期のデューイの思考方法の枠組みには、ハクスリーによる生物学的ダーウィニズムとヘーゲルの精神現象学・論理学の影響は明らかであるが、これらの影響は、後年、道具主義や実験主義、自然主義的経験主義という独自の哲学的立場として展開されていくものの、その基底にある問題の立て方、二項対立的な捉え方に対する弁証法的な捉え方は、生涯にわたり継続しているのではないかという点である。本研究では、デューイのコロンビア大学の初期の時代までは辿っているものの、デューイが最も精力的に執筆活動を展開した1925年以降については、まだ確認にいたっておらず、今後の課題である。第二に、デューイの中期における論理学思想が、ヘーゲルを離れC.S.パースに接近し、プラグマティズムとしての論理観へと発展したというのが一般的に見方であったが、今日、パースとヘーゲル哲学との比較研究がにわかに脚光を浴びるようになり、この観点からのデューイ哲学にみるヘーゲル思想の再評価の可能性が見えてきた。第三に、後期の探究の理論における日常性と科学の包括的な捉え方に弁証法的な枠組みを見る可能性も今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、南イリノイ大学のモリス・ライブラリー、ミシガン大学のベントレー・ライブラリーでの資料収集を予定していたが、諸般の事情(新コロナウィルスの影響)のためキャンセルをしたため、予定していた第一次資料の取得は次年度の課題である。またウィスコンシン大学のW.リース氏の好意で、20世紀初頭の高等教育における進歩主義・革新主義の歴史的遺産とその評価についてのワークショップを予定していたが、これも中止となった。本研究の課題遂行の若干の遅延とその成果発表については、今後順次計画的に行う予定である。他方、デューイの論理学研究で評価の高いオレゴン大学のJ.S.ジョンストン氏の好意で、近著の草稿の提供を受け、本書の資料より、本研究の対象としている史資料の一部をカバーしていることが判明し、本研究の課題遂行に資するものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、昨年度に実現できなかった南イリノイ大学のモリス・ライブラリーとミシガン大学のベントレー・ライブラリーでの資料収集を計画し、研究テーマの中心であるデューイの講義録とその周辺の資料の獲得に努める。他方、ヘーゲル哲学のうち論理学における弁証法的な思考の枠組みのデューイへの影響については、既存の公開された講義ノートやデューイの論理学研究についてのデューイ研究の最前線を吟味し、本研究の成果につなげるように努める。本研究において当初設定した仮説については、デューイの中期から後期哲学の探究概念に弁証法の痕跡を辿り、その根拠について究明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度、海外(アメリカ合衆国)への資料収集とワークショップでの成果発表を予定していたが、新型コロナウイルスの拡大により急遽、計画を取りやめたため、次年度への持ち越しとなっている。2020年度においては、引き続き、新型コロナウイルスによる規制緩和の動向を加味しながら、資料収集の計画を立て、予算の執行の遅れを取り戻すべく研究を遂行する予定である。
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