本研究の目的は、新教育運動における「社会の変化の受け止め」と「社会への開かれ」の構想と帰結を検証することで、20世紀初頭の戦間期という予測不可能な時代と21世紀初頭のグローバル化という予測不可能な時代の親和性に着目することで、予測不可能な時代に効力を発揮する社会との関わりの在り方を教育の観点から考察することにある。 コロナウイルス感染症対策の影響を受けて移動が厳しく制限されたことを受けて、2020年度に予定していた国内外における研究成果の口頭発表については実現が困難となった。2020年度については、2019年度ザーレム城校(ドイツ・ザーレム)で収集した資料をベースとして、「地域」を想定する「社会」への開かれを促進する教育実践を「既存の社会を相対化させる前提」をなす自己理解と「既存の社会に適応させる前提」をなす公共心育成の交差点としての「社会」への向き合いという枠組みで捉えることにより、新しい学習指導要領の根幹をなす「社会に開かれた教育課程」という理念と新教育運動の理念の親和性を析出させ、その対比という文脈のなかで可能性と問題点を考察することを目指した。 「社会への開かれ」という視点から既存の価値体系が根底から破綻した100年前の戦間期にザーレム城校の設立者における「既存の社会を相対化させる前提」をなす自己理解と「既存の社会に適応させる前提」をなす公共心育成の交差点としての「社会」との向き合いを解明し、さらに100年にわたり教育実践を積み重ねるなかでザーレム城校が維持しているものと変容させたものを分類・分析することで、我が国の学習指導要領が謳う「社会への開かれ」という地平における援用可能性を描出した。
|