研究課題
本年度は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、教育学が実証的な科学に対してどのように対峙したのかを、実験心理学・教育学と哲学との接面や教員養成・大学での学問領域の編成過程、教師の教育実践をめぐる科学的根拠づけの希求等の広い文脈に置いて検討した。その結果、教育学領域の境界画定には、学問的な基礎付けをめぐる問題だけでなく、当時の教育や広く社会問題を取り巻く諸課題の認識や、教員養成制度や教育測定の動向などの教育実践をめぐる多様な制度・取組が関わっていたことがわかった。その成果は、中国四国教育学会第72回大会ラウンドテーブル「教育と科学の思想史―19世紀末から20世紀初頭を中心に」(熊井将太、杉田浩崇、白石崇人、宮原順寛、深澤広明)で発表した。また、昨年度出版した『「エビデンスに基づく教育」の閾を探る』をめぐって、広島大学高等教育研究開発センターの公開研究会の合評会(2020年8月4日)に、杉田と熊井が登壇し、研究成果の発信を行った(Be a Learnerへの記事掲載、広島大学高等教育研究開発センター「ディスカッションペーパー」No.14への掲載)。また、石井英真ほか『流行に踊る日本の教育』(東洋館出版、2021年)の「エビデンスに基づく教育―黒船か、それとも救世主か」(杉田)「個別化・個性化された学び―『未来の学校』への道筋となりうるか」(熊井)や、『教職研修』第580号(2020年)の「「エビデンス」の広がりを前にして、私たちを駆り立てるものを考える」(杉田)の執筆を通して、広く一般読者に向けた研究成果発信も行った。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の『「エビデンスに基づく教育」の閾を探る』刊行をふまえて、今年度は19世紀末から20世紀初頭にかけての教育学が置かれた文脈を、学問の基礎づけ次元だけでなく、より広い社会動向に関連づけて捉えた。そうすることで、エビデンスをめぐる教育学領域の境界画定が焦点化された接面を、教員養成改革や教育測定の動向、大学内外の学問の位置づけなど多岐にわたって考察する視点を得た。他方で、新型コロナウイルス感染状況から、当初予定していた研究成果の最終とりまとめの機会を十分に確保することができなかった。
前年度までの研究成果をふまえて、研究成果の最終とりまとめを行う。目下様々に展開されつつあるエビデンスに基づく教育をめぐる考察と、19世紀末から20世紀初頭にかけての教育学の境界画定過程をめぐる考察を関連づけて捉え、それらをアクターネットワーク理論などの理論的枠組みから再構成することを目標とする。
新型コロナウイルス感染状況をふまえて、当初研究成果を発表する予定であった国際学会が中止となったため、次年度使用額が生じた。次年度も引き続き国際学会の開催状況は不透明であるため、次年度はこれまでの成果をあらためてアクターネットワーク理論等の方法論的な視座から捉え直すべく、研究会を開催するとともに、その成果報告の場としてオンラインの活用等も視野に入れる。次年度使用額は、こうした研究会や成果報告に向けた準備等に使用する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (2件)
広島文教大学高等教育研究
巻: 7 ページ: 45, 60
Educational Philosophy and Theory
巻: - ページ: 1~12
10.1080/00131857.2021.1897571
巻: - ページ: 1~17
10.1080/00131857.2020.1802819