研究課題/領域番号 |
18K02285
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
森岡 次郎 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 准教授 (10452385)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 能力主義 / 遠山啓 / 多様な学び |
研究実績の概要 |
2018年度は、能力主義的教育観を批判的に考察するための理論研究を中心的な課題とした。「理論と実践」、「抽象と具体」の往還のための準備作業として、本研究における「理論」「抽象」の整理を行った。教育関係における「他者への欲望」、「うまくいかなさ」を希求する心性を明らかにするためには、教師の意図が実現しない状態、コミュニケーションが不可能な「他者」、能力の獲得を目指さない教育関係などについて、哲学的・理論的考察が必要となる。 本研究の初年度となる2018年度は、戦後日本の教育運動において指導的な役割を果たした遠山啓の教育思想について考察した。遠山は、晩年には障害児教育(養護学校)にも深く関わり、教育における競争主義やテストの点数による競争原理を批判した。本研究にとって重要な教育思想家・活動家として位置づけることができるが、彼の教育思想研究については、十分になされているとは言い難い。本年度は、まずは初期(1950年代)の遠山啓の著作を読み解き、とりわけ戦後日本における生活単元学習批判に関する考察を行った。 また、能力主義を異化する教育実践を検討するために、いわゆる「オルタナティブ教育」「多様な学び」の実践者、研究者たちと交流を行った。一般的な学校(一条校)とは異なる教育目標を掲げている、もしくはそういった目標を設定すらしないような「学びの場」における教育関係とはどのようなものか。そうした教育関係において、学習者(子ども)はどのような存在として位置づけられているのか。特別支援教育(とりわけ発達障害)との類縁性・連続性を持つような教育実践について考察することで、本研究のモチーフである「他者への欲望」についての理解が深められていくはずである。「多様な学び」の実践者、研究者たちとの研究会を、定期的に開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書に記したとおり、本研究の初年度は理論研究を中心に行っている。2年目以降、教育実践(特別支援教育実践)についての調査、研究を行うための前段階として、教育哲学における能力主義の問題、「他者」概念に関する検討などを行った。 現代思想における「他者」概念の検討については、いささか不十分であったが、遠山啓の教育思想研究については一定の成果があった。理論研究に必要な資料や文献の収集などを進めており、今後も理論的な深化を目指す。 また、実践者、研究者たちとのネットワーク構築についても、その準備を整えている最中である。今後、共同研究(研究分担)も視野に入れつつ、理論研究と実践研究を往還しつつ、複眼的に研究を進めていくための準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究成果に基づき、今後も計画に即して、理論研究および教育実践の分析を行っていく。2018年度は研究代表者単独での作業が多くなったが、本研究の2年目以降は、より多くの教育実践者、研究者と連携し、協力しながら研究を進めていく予定である。 引き続き、哲学的理論研究を継続させながらも、特別支援教育に関する具体的な検討を開始する予定である。また、研究会も継続し、とりわけ教育学と政治学との接点も探りながら、能力主義的教育観を超克する「他者への欲望」の様態について、検討を続けていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、研究を進めるうえで必要な物品、ノートPCや遠隔会議用スピーカーフォン、文書整理用のスキャナなどを購入したが、フィールド調査に関する物品購入については次年度以降の執行となった。また、遠方から複数の参加者を想定した研究会開催にかかる交通費なども計上していたが、2018年度については研究代表者(森岡)が学会等に参加することによって情報交換を行ったため、当初予定よりも執行金額が少なくなった。
2019年度は、前年度の予定を組み込む形での物品費、旅費などを執行する予定である。また、研究会の運営や資料整理にかかる人件費、および、研究協力者や研究分担者の追加を予定している。
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