2023年度は、前年度に引き続き、本研究における「理論」領域に焦点化した研究を行った。研究代表者の森岡は「安喰勇平著『レヴィナスと教育学―他者をめぐる教育学の語りを問い直す』」「矢野智司・井谷信彦編『教育の世界が開かれるとき:何が教育学的思考を発動させるのか』」といった教育哲学の研究書の書評を執筆し学会誌に投稿するとともに、昨年度に出版した書籍『人生が輝くSDGs』を英訳し『SDGs for Well-being』を共著書として公刊した。これらの業績は、教育学における他者論、物語論、といった本研究課題の原理的な領域に関する考察を深めるものであるとともに、理論と実践の接続を企図して書かれたものである。 研究分担者の福若氏は、森岡の単著『教育の〈不可能性〉と向き合う―優生思想・障害者解放運動・他者への欲望』に対する書評、関西教育学会第75回大会における「「生かされている」という言説をめぐる教育上の意義と課題」というタイトルでの研究発表、『関係性の教育学』および『ホリスティック教育/ケア研究』といった学術雑誌における論文の発表を行った。 いずれの研究実績も理論的な教育哲学研究であるが、特別支援教育について考察する上では重要な「倫理」や「人権」を問う視点を提示している。したがって、特別支援教育を含教育実践一般に関する議論にも接続可能な議論であるといえる。
本研究成果全体を通じた成果としては、研究代表者である森岡の単著の公刊、継続的な学術雑誌への論文投稿、共同研究者との学会発表等を行うことにより、教育哲学に関する原理的な研究として一定の成果を得ることができた。他方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、特別支援学校へのフィールドワーク、対面での研究会の実施などが実現できず、今後の研究への継続的な課題として残された。
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