研究実績の概要 |
コロナウィルスの感染状況の拡大により、2020年度以降の研究計画は、中途での変更を余儀なくされた。変更後の2021年度の計画としては、(1)国民学校の宗派化に関する論文を推敲し、教育史学会会誌に投稿する。(2)国民教育委員会年次報告書より、国民学校制度から「除籍(struck off)」された学校のデータベースを構築する。(3)国民学校制度の認可や除籍にかかわる視学官制度の変遷、とりわけ視学官ジェイムズ W. カバナー(James W. Kavanagh)のケーススタディを準備する、という三つの目標を立てた。 (1)に関しては、『日本の教育史学』第64巻(2021年10月)に「19世紀中葉アイルランドにおける国民学校制度の宗派化―私設公営学校(non-vested school)の導入と展開―」として掲載された。(2)に関しては、アイルランド国民教育委員会年次報告書を史料とし、1837年から1900年までの「除籍・認可取り消し」のデータベースの作成(5298件)を終えている。今後、量的な分析を試みる。(3)に関しては、現地の文書館での史料調査が不可能であったため、イギリス議会文書データベース等のデジタルアーカイヴズを中心に、カバナー視学官に関する基礎的な史料蒐集を行った。 また、ダブリン・シティ・ユニヴァーシティのブレンダン・ウォルシュ博士から依頼された論文集Education Policy in Ireland Since 1922(Palgrave Macmillan, 2022)への寄稿を完了した。Chapter 4. Denominationalism, secularism, and multiculturalism in Irish policy and media discourse on public school educationとして掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の大幅な変更を余儀なくされたとはいえ、2022年度は本研究の最終年度となる。基本的には、コロナウィルスの感染状況の好転を想定して渡航および史料調査(とりわけアイルランド国立公文書館の国民教育委員会関係史料)の可能性を探りつつ、国内で可能な研究を並行して進めていく。具体的には、(1)作成し終えた国民学校の「除籍・認可取り消し」に関するデータベースの分析を行う。時代・地域・除籍理由など、複数の観点からラフな見取り図を得ることができるはずである。(2)これまでの研究で得られたアイルランド国民学校の宗派化に関する知見を総合しつつ、他の地域における公教育制度の「世俗化」と比較する。例えば、近年では、19世紀後半から20世紀初頭までのヨーロッパや南アメリカの各地域において、公教育制度の「世俗化」がどの程度進展したのか、それを規定する要因は何なのかを解明しようとする研究が発表・展開されてきている(Ansell, B., & Lindvall, J. (2013), ‘The Political Origins of Primary Education Systems: Ideology, Institutions, and Interdenominational Conflict in an Age of Nation-Building’, American Political Science Review, 107(3)。また国際教育史学会の研究部会として設置された'History of Laic Education: Concepts, Policies and Practices around the World’は、今後研究成果を公開していくはずであり、活動をフォローする予定)。これらの成果に学び、本研究の成果をより広い歴史的文脈に位置づけるレビュー論文の執筆を目指す。
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