研究課題/領域番号 |
18K02291
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小野 雅章 日本大学, 文理学部, 教授 (70224277)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育勅語 / 学校儀式 / 国定教科書 / 御真影 / 奉安殿・奉安庫 / 教授細目 / 教育関係雑誌 |
研究実績の概要 |
2020年度は、今回の研究期間4年間の3年目にあたるため、これまでの史料収集と分析主体から、史料分析とその論文化へと移行した。その概要は、①学校教育のなかで教育勅語が教材としてどのように認識され、それがどのように教授されたのか、この点についての史料分析、および②分析した一部の資料を用いて論文の執筆や講演である。 ①については、2019年度、松本市国宝旧開智学校校舎、および長野県諏訪市立高島小学校(現上諏訪小学校)所蔵の修身科教授細目、同教案、副教材などを分析し、教材としての教育勅語の授業の場面での扱われ方について考察した。それとともに、国定教科書については、修身教科書の児童書、教師用書に双方を用いて、教育勅語をどう解釈して、それをどのように教授するように求めたのか、この点を中心に分析を行った。特に、国定第二期修身教科書編纂における文部省による教育勅語の釈義の決定過程など、公文書が不足する状況のなかで、当時の新聞記事や雑誌記事などを適宜補足的に使用しながら考察した。その結果、第一期国定修身教科書の記述に関する世論からの批判により改訂を余儀なくされるとともに、修身教科書における教育勅語教育の強化が強く求められるようになった経緯を、日清・日露戦間期に権力内部で繰り広げられた教育勅語の撤回・改訂・追加の試みが収束した事実との関係で考察した。この点については、2021年度補足的な史料の収集と分析を加えて論文として公表する予定でいる。その他、国民学校期の教育勅語の教授の実態などについての史料も注目すべきものの収集ができ、ある程度の分析も進めた。 ②については、本研究課題の中核のひとつである学校儀式の問題について研究論文を執筆し、「象徴天皇制下における祝日学校儀式の展開過程」(『教育学雑誌』第57号、2021年)としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの観点により、「おおむね順調に進展している」と判断した。理由の第一点は、史料の調査・収集の成果である。前年度の段階で史料の調査・収集はほぼ終了している。本年度は、補足的な資料調査を実施した。これにより、小学校段階の修身科教育における、教育勅語関係の掛図、副読本、教師作成の副教材などを確認し収集することができた。これらは先行研究で論究されることが少ない史料群であり、今後、最終年度における史料の解読と分析、さらに研究論文としてその概要を発表する段階で、本研究の大きな成果のひとつになると思われる。 理由の第二点は、調査・収集、および分析を終えた史料を用いて、本研究の中核となる研究論文を執筆である。により、1948年6月の教育勅語廃止後も、戦前日本の天皇制公教育を支えた御真影は再下付がされ、祝日学校儀式も新たな国民の祝日には、教育勅語「奉読」こそないものの、戦前の四大節学校儀式に準じた学校儀式が元旦、天皇誕生日、文化の日を中心に実施されていた事実を公文書資料、雑誌・新聞の記述などに明らかにすることができた。本論文は、学校儀式の戦後史として本研究課題の重要な位置を占めるものであり、本研究を順調に進展したと考えられる。 一方で残され課題もある。年度当初はコロナウィルス感染症対策の第一回目の緊急事態宣言があり、史料の補足的な調査・収集が十分に行き届かなったことである。重要な史料調査先の公立小学校などが感染予防の一環で調査許可を得られない事例も数多くあったことによる。 以上により、「(2)おおむね順調に進展している」と評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、本研究課題の最終年にあたるので、研究の総まとめとして、以下の三点を中心にして進めていきたい。 第一点は、調査・収集した史料の目録化と公開の準備である。研究期間終了後、調査・収集した史料は、目録化した所属先の図書館に納入することにより公開する予定でいる。史料目録作成の最終調整を進める予定でいる。 第二点は、本研究の総まとめとしての研究論文、あるいは著書の刊行である。現在のところ、新書(集英社)の出版計画を進めているが、これを年度内に刊行するべく準備を進めている。草稿はほぼ完成して、現在はリライトを進めているところである。 第三点は、最終報告書の作成である。一般書としての新書の刊行の他に、読者を研究者に絞った研究論文と主要史料を掲載した研究報告書を作成して、広く配布する予定でいる。本年度は、上述三点に絞って研究を進める予定にしており、予算もその方向で計上している。
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次年度使用額が生じた理由 |
基本的には、コロナウィルス感染症対策の一環による、調査対象とする機関の調査依頼の拒否などによる旅費の未使用によるところが大きかった。次年度も予想されることであるが、感染予防の対策などに十分配慮して、旅費をともなう史料の調査・収集に充当する予定でいるが、それが不可能な場合には、史料収集のための書籍代、資料代として使用することにしたい。
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