今年度は、本来昨年度で終了するはずであった研究がコロナ禍で計画どおりに進まなかったため、一年延長して研究を進めた。ただし、大半の予算は昨年度で費消されており、活発に研究を行えたとは言えない。そんな中でもかなり大きな研究成果と言えるのが、今井康雄編『モノの経験の教育学--アート制作から人間形成論へ』(東京大学出版会)の刊行である。研究代表者の今井の編著、研究分担者の眞壁と山名が執筆陣に加わっている。この書籍は、全体としては今井が研究代表者を務めた科研費研究「教育空間におけるモノとメディア――その経験的・歴史的・理論的研究」の成果報告ではあるが、今井による「はじめに--「モノ」の経験へのアプローチ」には今回の科研研究の成果も盛り込まれている。 また、本科研研究の成果である今井による『思想』誌での連載「世界への導入としての教育――反自然主義の教育思想・序説」(1136、1138、1144、1149、1158、1161号)をテーマとしたコロキウムが昨年度の教育思想史学会大会で開催されたが、そおまとめとなる「教育思想史と自然および自然主義」(綾井桜子、相馬伸一、高宮正貴、今井康雄執筆)が教育思想史学会の機関誌『近代教育フォーラム』第30号に掲載された。 さらに、山名主催の「メモリー・ペダゴジー研究会」(2022年3月21日)での今井の発表「「教育における記憶と伝統」の構想案」は、上記「世界への導入としての教育」論文では十分に立ち入ることのできなかった実験心理学的な研究の教育論への浸透とそれによる教育論の構造変化を扱った。
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