研究課題/領域番号 |
18K02293
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
高橋 亜希子 南山大学, 人文学部, 教授 (90431387)
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研究分担者 |
和井田 清司 武蔵大学, 人文学部, 教授 (50345542)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高校 / 探究学習 / 総合的な探究の時間 / 高大接続改革 / 新高校学習指導要領 / 大学入学共通テスト / 内発的 / 学校改革 |
研究実績の概要 |
2020年度は(1)内発的学校改革に関する理論的検討,(2)A高校の2018年度部研究に焦点を当てたカリキュラム開発過程の検討と論文執筆、(3)フィンランドの高大接続とデジタル大学入学資格試験に関する現地調査と論文執筆、の3点を行った。 (1)に関しては、和井田(2005)の内発的学校改革に関して、内発的発展論の系譜の確認、スクールベースドカリキュラム等との相違を検討し、学校と外界の状況の調整に加えて、学校側の内発性と同一性が重視されていることを確認した。 (2)に関しては、新学習指導要領への対応が、高校の内発的な学校改革の契機となりうるかに関して、私立高校A高校の2018年度の校内研究(部研究)の事例研究を通して考察した。(「内発的学校改革としての高校教育課程の開発―新学習指導要領の捉え直しと学校アイデンティティの再構築―」日本教育方法学会第56回大会自由研究発表。)部研究では新学習指導要領とA校のカリキュラムの関係について、個人スピーチ、各教科、選択科目と総合、の3回の検討を行っており、それは、①A校の理念と新指導要領の関係を言語化し実践の意味を問う、②教員・教科相互の理解と対話を通した同僚性の形成、の二つの意味を持った。以上から、新指導要領への対応が内発的学校改革の契機となる可能性が示唆された。 (3)に関しては、フィンランドのデジタル大学入学資格試験の内容・方法に関して、2020年3月に実施したフィンランド教育庁でのカティ・ミッコラ氏へのインタビューと文献資料を基に紹介した。フィンランドの大学入学資格試験は、①USBメモリースティックを用いて既存のパソコンで試験システムを立ち上げる、②パソコンの利点を生かしつつ、選択式と記述式の問題形式を用いる、③高校教員と試験問題作成委員会による解答の二重のチェック、などの特徴がある。その内容をウェブジャーナルと論文により紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、研究の中心部分である内発的学校改革に関する理論的整理と事例分析を行い、論文を2編と学会発表を2件行えたことから、研究としては順調に進行している。2019年度には高校の学習指導要領と探究学習に関する全体的な文脈や状況を整理しており、2020年度の目標として、インタビュー調査や訪問調査を通して得られた高校の実際のカリキュラム、探究学習の指導・内容に関して、「内発的発展」との関係から分析、考察を行うことを挙げていた。2020年度は、A校の2018年度の部研究の分析を通して、そのため、2020年度の目標は達成できたと考えられる。 一方で、新型コロナウイルスの影響により、新たな高校訪問やインタビューを行う機会は制限された。そのためオンラインで実施された複数の高校の公開研究会や探究学習の発表会に参加したり、オンラインを用いて高校への出前授業を行ったりなど、可能な方法で高校現場への接点を持った。 また、フィンランドのデジタル大学入学資格試験の内容・方法に関して、2020年3月にフィンランド教育庁で問題作成委員であるカティ・ミッコラ氏へのインタビューを行う機会を得て、日本にその内容を紹介することができた(ウェブジャーナル“SYNODOS” 「大学入学共通テストはデジタル化可能か? フィンランドのデジタル大学入学資格試験からの示唆」(2020年8月27日)等)。日本においてもコロナ禍により対面試験が制限され、記述式問題の採点が課題となる中で、①導入費用の抑制、②記述式問題の採点の信頼性の担保、③対話的で開かれた導入経緯など、日本の大学入学共通テストへの複数の示唆が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、2020年1月に訪問したB高校を再訪問し、B高校の探究学習の実践と中高一貫校化についての分析を行いたい。B高校は、ある県の地域の進学校であるが地域の衰退により、高校の今後の方針が求められていた。その中で2013年に当時の校長を中心に今後の学校の方針に関するプロジェクトチームが組まれ、新学習指導要領の方針の学習や他校の教育実践の参観を行い話し合いを重ねた。2014年から総合的な学習の時間の改革を行い、そして2017年から探究学習を中心とした連携型中高一貫校となった。また、授業改革推進チームが置かれ、主体的・対話的で深い学びのための研修や公開授業のルーティーン化が行われている。また、ユニークな存在として探究学習を支援する“探究塾”が高校の近くに置かれ、B高生が通っている。2020年度に分析対象としたA校が学校アイデンティティとの連続性を模索し、カリキュラムを開発したのに対し、B校は、積極的に外界の状況を学び、外界のリソースと繋がったカリキュラム開発を行ったことに特徴がある。現在は2021年5月にB校を再訪問し、2021年8月の日本教育学会で研究発表を行う予定である。 第2に、私立のC高校の“教育探究コース”の卒業研究の内容も詳しく追いたい。C高校では、自分探しや教職との関係で、探究学習や卒業研究が行われており、それは、C高校の生徒が自身の“声”を獲得していく過程となっている。C高校の訪問も行いたい。 第3に内発的学校改革に関する知見を深め、最終年度として、総括と提言を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数の高校訪問と調査、学会発表を予定していたが、新型コロナウイルスの影響により、学校訪問は中止せざるを得ず、学会発表も、要旨のみの発表となったり、オンライン開催となったため、主に旅費・謝金の執行を行うことができなかったため。
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