これまでの研究のまとめのための準備を進め、東京大学出版会から「境界線の学校史」というタイトルで出版をおこなった。新たな教育史叙述のための第一段としての基礎研究としてまとめをおこなったといえる。具体的には、二つのカテゴリーで検討を深めた。一つは、「公教育を保障する境界線」という枠組みで、公教育の範囲に注目した作業を行った。1)夜間中学を対象に、学校教育か教育保障かにつながる問題に焦点をあて、公教育保障とはどういう形でなされるかに注力したうえで検討を加えた。2)定通教育を構成する定時制高校、通信制課程の展開をみながら、学校の境界線の広がりと外部との関係に注目して検討を深めた。3)朝鮮学校を対象に国家・民族の考察を深めながら教育を保障する対象について考察をおこなった。もう一つは、「どのような教育をどこまで保障するか」という枠組みで、普通教育の内容を考察した。そのなかで、生活指導、技術教育、工業高校での教育を対象に、政治(自治)、技術教育・職業指導、専門教育などのカテゴリーを検討した。以上を踏まえ、戦後の教育史のこれまでのドミナントストーリーとの関係で研究対象の学校、教育領域の仮説的な位置づけを行い、「境界線の学校史」という一つのコンセプトのもとで一書をなし世に問うた。 同時に、その作業を踏まえながらより精緻な第二段階に向けての研究を進めた。当初の計画通り技術教育、進路指導関係の基本資料の収集をおこない、これまでの蓄積した資料とともに整理を進め、本研究対象の周縁の学校の歴史的な位置づけをマクロな視野のもとより明確にしていくための作業をおこなった。
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