研究課題/領域番号 |
18K02305
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
朴木 佳緒留 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 名誉教授 (60106010)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 女性被災者支援 / インタビュー調査 |
研究実績の概要 |
東日本大震災の被災地にて、女性被災者への個別インタビュー及びグループインタビューを計4回、述べ12名について行なった。 インタビューでは「被災後8年を経て、改めて発災後の支援について振り返る」をテーマとして、半構成法による自由な発話を求めた。発災後8年を経て、初めて被災経験を振り返り、証言できたという方もいるなど、被災者にとっては「被災はなお継続中」であり、インタビューは客観的事情についての証言と言うより、「主観的な思い」を語る内容となった。インタビュー内容はテープ起こしをして、本人に内容を確認してもらい、その後にインタビュイーのプライバシーを守るために必要な加工を施して、データ化した。そのデータの内容を深め、インタビュイーの証言を解釈するために再度のインタビューが必要であることも判明した。 発災直後の避難所での支援は、総じて「良好」と証言されたが、そのことが直ちに「良い支援」であったと評価することはできず、むしろ「被災者なのでわがままを言うべきではない」という「判断」が先行していると思われた。また、避難所から自立的な生活に移行する過程での「出来事」と当事者の「思い」の間にはある種の「距離」があることも分かった。ここでも、「わがままを言えない」という判断があるように推察された。 研究協力者は被災地で「町づくりワークショップ」を行なった(2019年3月。参加者16名、うち女性5名)。本研究は女性被災者の「実感」をあぶりだすことを課題としており、インタビュイーの証言を解釈する際に、研究協力者による背景(地域事情)を捉える活動は有効であることも分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度には、東日本大震災の被災地に居住する女性被災者、女性外国人へのインタビューを行う予定であった。女性被災者へのインタビューの当初計画分は実施できたが、被災地の女性外国人を対象としたインタビューは未実施となった。調査対象となることを内諾していた女性外国人(複数)の日程調整が不調におわったためである。結果として、女性外国人へのインタビューは次年度に回さざるを得なくなり、やむをえないことと判断している。 他方、女性被災者(調査対象地在住の日本人女性)へのインタビューは順調に進み、女性被災者の「ニーズ」と「ウオンツ」の間にある当事者の「胸の内(思い)」を聞くことができ、「遠慮」の中身や「心の動き」を人間の関係性の問題として検討の俎上に上げることが可能になった。研究当初計画では、女性被災者と女性外国人被災者のインタビューは各々別個のものとしていたが、両者を関連付けてインタビュー調査を設定しなおすこととした。このことにより、研究遂行の遅れが、翻って、望ましい成果を上げることにつながると期待する。
|
今後の研究の推進方策 |
被災地に居住する女性外国人被災者へのインタビュー調査を最優先事項として実施したい。その際に2018年度に実施した女性被災者へのインタビュー結果を受けて、インタビュー内容について新たに検討しなおしたい。すなわち、女性被災者が感じていた「思い」の中身を女性外国人被災者にも同様であったかを尋ねる項目を加えたい。 研究初年度の女性被災者へのインタビュー調査の成果は「被災者による支援者への遠慮」の存在とそれら両者の間にある「人と人の関係性(心の動き)」を捉えることができたことである。研究2年目の2019年度には、漁業に従事している女性被災者を対象として、同様の調査を実施する計画である。調査対象者にはすでに内諾を得ており、現地の漁業の閑散期に実施する。 女性漁業者への調査の後に、震災後に起業した女性グループへの調査も企画している。東日本大震災後には行政も関わって女性被災者の復興策の一つとして「起業」が奨励された経緯がある。本研究では既存の地場産業(漁業)従事者との比較検討を予定している。なお、女性漁業者、女性起業者へのインタビュー調査は当初には予定していなかったことであり、2018年度の女性被災者調査の結果から新たに企画した内容である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
被災地に居住する女性外国人へのインタビュー調査を行なうことができなかったため、予定していた旅費、謝金等の支出が不能になった。女性外国人による自生的なコミュニティのリーダー格の女性が体調不良となり、インタビュー対象者をまとめ、日程調整することができなかった。 2019年度には女性外国人へのインタビュー調査(1回)、女性漁業者対象のインタビュー調査(2回)、女性起業者へのインタビュー調査(2回)、及び研究協力者による当該地でのワークショップ開催(3名、2回)、計7回分の旅費とインタビュー関連の謝金、学会参加費が主な支出となる。
|