日本語指導が必要な児童生徒に対する普通教育機会保障の前提となる日本の就学義務制度について、制度論的考察を行なった。日本の就学義務制度は、学校教育法第一条に定める一条校への「通学」を前提としたもの(就「学校」義務制度)であり、このような教育機会保障における制度的課題を、とりわけ不登校児童生徒の現状と課題の考察、及び中教審の基本的な考え方や施策の方向性を通じて、明らかにした。これを踏まえつつ、日本語指導が必要な児童生徒の母語(第一言語)の多様化やそうした児童生徒の日本全国への散在化と特定地域への集住化の同時進行を考慮して、そうした児童生徒の母語・母文化教育保障において、オンライン(ICT)による学習支援、教育機会保障が有力な方途であることを示した。 上記を踏まえ、高校段階までの継続的広域的な(教育)行政を担う都道府県・政令指定都市が、日本語指導が必要な児童生徒の教育機会保障に関してどのような理念、方針を有しているのかについて、都道府県等の教育振興基本計画及び教育大綱を網羅的に収集し、整理・分析し、考察を行なった。その結果、大綱・計画の規定レベルでは、都道府県等に日本語指導が必要な児童生徒等に対する教育の方針、支援のあり方に大きな格差が存在していることが明らかとなった。こうした中、(習得、伸長すべき)目的としての母語・母文化に位置付けている大阪市の政策は特に注目される。このような方針は、日本におけるバイリンガリズムの理念に基づく教育機会保障の先進的な方針、取り組みとして評価できよう。また、ICT、オンラインによる学校間・自治体間等との連携協力の推進、そのための情報インフラの整備や、幼児期から高校段階までの総合的継続的な行政支援は、むしろ、日本語指導が必要な児童生徒数が少なく、母語に多様性がある場合に、より必要かつ重要であるとも考えられる。
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