最終年度には、これまで集めた資料から歴史的検証を行った。対象は本研究対象の一つである私立学校の寮であり、具体的には高知県の私立土佐高等学校(当時は旧制土佐中学校)の寮を対象とした。旧制土佐中学校では、高知県内の遠距離通学者を対象とした寮を構内に設置し、生徒たちの自治にゆだねていた。 しかしながら、戦災により全焼した。幸い人的被害はなかったが、寮は戦後の新学制では再建されなかった。学校内での寮の設置と運営については、生徒を親元から離して通学負担を減らすことができるが、一方で寮の運営については生徒への負担が軽いとは言えなかった。さらに、戦災などの危機に遭遇した際に実害を被る危険性も高いことが指摘しうる。結局土佐高等学校は長期の空白期間をおいて、学校外に両機能を備えた施設を設置することで運営している。 3年間の研究期間において、宮崎県椎葉村立椎葉中学校を調べ、宮崎県の河川行政ゆえに必然的に生じる長距離通学者を収容する施設としての意義と自宅生徒の公平性の問題を指摘した。高知県の私立学校の寮では、学校内に設置することのリスクと自治の可能性を指摘した。公立高等学校通学区制度の広域化により、今後も寮や下宿をせざるを得ない生徒が生じるが、対策としては社会教育にまで視野を広げた支援体制の構築と河川行政等の教育行政以外の施策との関連性を考慮して、総合的施策によって対応すべき問題であると考えるに至った。このことは、地方創生等の文部科学省以外の省庁が管轄する施策と関連することの合理性と青少年の発達という教育行政の観点から他省庁の施策への政策提言の重要性を指摘するものである。
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