研究課題/領域番号 |
18K02312
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
荻原 克男 北海学園大学, 経済学部, 教授 (70242469)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中立性 / 教育の政治的中立性 / 教育政策 |
研究実績の概要 |
当初は昨年からの継続で1940年代の分析作業を行っていたが,同時期の「独立」概念の特質は,その後の時期の「中立」概念の展開史の中に位置づけて捉え直す必要性があることが分かってきた。このため,作業方針を一部変更し,1950年代以降の分析作業を行った。具体的には,戦後期における国会審議録を対象として,そこにおける「中立性」の用語の出現頻度とその使われ方を調べた。 国立国会図書館の「国会会議録検索システム」を用いて,まず「中立性」を用語として広く検索をかけ,その中から教育に関わる発言について中身を確認しながら抽出していった(これは教育分野に限らない全体状況をも把握する必要があると判断したためである)。1945年から2020年までの76年間において,「中立性」という語の最大頻出時期は1954年であった。つまり同年は,すべての政策分野を含めて「中立性」という用語が最も頻繁に議論された年だったということである。その中心にあったのがまさに「教育二法」であった。 また,当初予定では,教育における「中立・独立」性の展開過程について,試論的にせよ一定の視点からの概念整理を行う予定であったが,実現には至らなかった。当然のことながら,概念整理を行うには,整理のための「視点」が必要だが,それが定まらなかったことが最大の要因である。言説分析の方法論や先行業績を参照しつつ試行錯誤したものの,有効な整理視点を構築することができなかった。現時点でも明確な突破口は見出せていないが,“イデオロギー研究”という方向に望みがあるのではないかとの仮説は得つつある(M.Freedenなど。日本では,保革のイデオロギー対立が教育研究へのバイアス・制約条件となってきたことへの批判・警戒が根強い分,イデオロギー分析の系譜が途切れてしまった観がある)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
概要に記載のとおり,当初計画では2つの作業を行う予定であったが,いずれも準備的な段階にとどまってしまった。特に,予定した作業課題の2つ目(「独立・中立」性の通覧的な概念整理)は,本研究課題の最終ゴールともいえる重要テーマであり,試論的にでもこれに形を与えることができなかったことに自らの力不足を痛感している。その根本要因は,有効な分析視角を見いだしえなかったことにある。この欠落を埋めるべく,本課題の研究期間を1年延長することとした。
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今後の研究の推進方策 |
新年度では,上記の反省をふまえ,次の2つを柱として作業を進める。 第1に,本年度ではその出現回数などの数量的分析にとどまった国会審議録における「中立性」について,その語の使用法や文脈に応じた意味内容の違いに関する概念分析を行うことである。そのためには,概要でも触れたとおり,概念整理のための分析視点を画定する必要がある。国会審議録における語の用例を丁寧に読み込む作業と同時に,それらを整理する視点・枠組みの構築作業を並行して進める。第2に,「独立・中立」概念の変容・継起過程について,一つの通覧的見取り図を示すことである。それはもちろん,あくまで試論的な一つの構図案にとどまるであろうが,本研究課題の最終年度の作業として取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
過去年度からの作業遅れが依然取り戻せず,繰越し経費が発生した。今後の執行計画としては,主に資料収集と関連専門家からの聞き取り調査のための経費に充当する。概要でも述べたように,「中立」概念の最大の使用頻度時期は教育二法に関わる50年代半ばである。このため,同時期の文部省と日教組双方の内部資料の調査収集のため東京への調査出張を実施する。さらに,当事者や隣接分野の研究者からの聞き取り調査を行う。このため,必要に応じての出張旅費および専門的知見の供与に対する謝礼にあてる。
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