研究課題/領域番号 |
18K02326
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 高聡 北海道大学, 大学文書館, 准教授 (90312420)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 開拓使 / 教育経費 / 学校 / 留学生 |
研究実績の概要 |
1874年12月に札幌本庁に教育行政部署として学務局を設置し、地域への学校設置・普及策を本格的に始動する以前、開拓使は、北海道「開拓」事業に資する人材を養成する広範な「人才教育」を実施した。当時の西洋最先端の農学・工学・鉱山学・器械学等を教授することを計画して東京に設立した開拓使仮学校、主に開拓使官員子弟の教育を目的に従来の漢学等に加え英語・数学を教授した札幌の資生館、開港場であるため通商上必要性の高かった英語・ロシア語等を中心に教授した函館学校などの官立学校では、生徒に学費を含む就学期間の費用を官費支給するなどの就学体制を取った。また開拓使がアメリカ・ロシア・フランスに派遣した海外留学生にも官費を支給した。これらの官費生徒・留学生には、学業修了後に5年乃至10年の期間を北海道「開拓」事業に従事するよう義務付けており、「人才教育」に対する官費支出には人材の養成と共に確保の意味合いもあった。一方、早期の旧武士層の集団入植地には教育機関設置を許可・勧奨し、官有建物の提供や書籍の貸し出し、官費による教員給与支給などによりこれを支援した。これらは移住政策の一環であったと言える。 この時期の官費支出について、従来は北海道「開拓」のためといった抽象的な解釈に終始していたが、個別の学校設立の目的やその後の状況に応じた改組、留学生発遣時期による派遣のあり方の変遷などから、それぞれの施策の意図を、そのときどきの北海道統治・「開拓」事業の課題との関わりに基づき、より具体的に明らかにすることができたと考える。 この後、開拓使は「人才教育」から、入植地等の地域に対する学校設置・普及策へと教育政策を転換する。教育財政においては地域の学校設立・普及・維持のための学校補助が課題となる。次年度以降の研究では、「人才教育」を重視した時期の官費支出との対比において、学校補助としての教育財政を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道立文書館・北海道大学附属図書館北方資料室・北海道大学大学文書館(札幌)、国立公文書館・国立国会図書館(東京)、函館市中央図書館などで開拓使期の教育行財政に関する資料調査を実施した。 調査した資料に基づき、教育史学会第62回大会(2018年10月2日、一橋大学)において「開拓使の人才教育策の展開における教育経費」と題して研究報告を行なった。また、『北海道大学大学文書館』第14号(2019年3月)に論文「開拓使における海外留学生派遣意図の変遷」を掲載した。研究報告と論文により、開拓使が1874年以前に進めた北海道「開拓」事業を推進するために必要な技術や知識を身につけた人材の養成を目的とした「人才教育」を政策面と財政面において、明らかにできたと考える。 以上より、おおむね研究計画通り順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画2年目は「初等教育始動による教育財政」(1876-1882年)を課題とする。学校設置・普及と維持のための教育経費をどのように確保するかについて検討する。 開拓使は教育経費の確保について、青森県・岩手県・宮城県・東京府・神奈川県等に視察や照会を行ない、施策立案の参校とした。これらに関係する資料を青森県立図書館・岩手県立図書館・宮城県公文書館・東京都立公文書館・神奈川県立公文書館などにおいて調査する。開拓使と太政官・文部省など中央政府との政策協議に関する資料・記録を国立公文書館・国立国会図書館等で調査する。施策の立案・実施過程に関しては、開拓使の資料を所蔵する北海道立文書館・北海道立図書館・北海道大学附属図書館・北海道大学大学文書館・函館市中央図書館等で調査を実施する。 資料調査に基づき、学会・研究会で研究報告を行なう。学会等での報告と議論を踏まえ、論文を作成し学会誌等に投稿する。
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