研究課題/領域番号 |
18K02326
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 高聡 北海道大学, 大学文書館, 准教授 (90312420)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 開拓使 / 教育経費 |
研究実績の概要 |
開拓使札幌本庁学務局(1874年12月)は、地域への学校普及策を展開し、1876年以降、札幌本庁管下の学校数は増加した。札幌本庁では学校へ個別に支給する官費が急増する中、1876年11月にこれを廃止し、学齢者数に応じた教育補金を配布する新制度を定めた。この教育補金制度は一律の割合で学校経費補助を行なうものであったが、入植地の状況や学校の態様に応じて、従来の官費支給額を踏襲する補金額を設定する地域もあった。また、常に様々な形態の入植地形成が進むため、制度の枠外で学校補助を実施する必要も生じ、教育補金制度は所期の目的を必ずしも達せられなかった。1880年4月、札幌本庁は郡区毎に定めていた教育補金額を学校毎に定める方法に改正し、補助が必要ない学校への配布を廃止し、補金総額を抑える措置を取った。 函館支庁では当初、函館に設置した外国語等を教授する官立学校の整備や、福山(松前)・江差への中学校開校計画、文部省「学制」に基づく「学区」の設置などに注力し、地域への学校開設着手が遅れた。1878年以降、函館支庁が地域への学校奨励を開始すると、既に居住者の定着した村落が多かったため公立学校の設置が急増し、開設した学校を維持するためにある程度永続的な財源が必要となった。公立学校の急増は教員給料の支出を伴う教員確保の問題にも直結し、函館支庁は1880年以降、予算全体の削減の中で教育経費も節減しながら、学校普及を図るための効果的な補助策を講じる必要に迫られた。函館支庁は1880年6月30日、従来の教員給料の官費支給を廃止し、「小学補助金配布及支払概則」を定めた。この小学補助金制度は学齢者数の割合に応じて郡区役所に補助金を配布し、各郡区役所が学校ヘ補助金を分配する制度であった。既に村落形成が進んでいた地域に学校を開設していく例が多い函館支庁では、一律的な学校経費補助策を比較的実施し易かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道大学附属図書館・北海道立文書館において開拓使の教育政策に関わる資料を、函館市中央図書館・江差町図書館等において開拓使函館支庁の教育財政及び学校関係の資料を、国立公文書館・国立国会図書館等において政府・文部省の教育政策及び他府県の教育政策・財政に関する資料をそれぞれ調査した。 調査した資料に基づいて、教育史学会第63回大会(2019年9月28日、静岡大学)において「開拓使の学校・教育所経費補助策」と題して研究発表を行なった。研究発表を基に、発表の際の議論を参考にして研究論文を作成し、教育史学会誌『日本の教育史学』第63集(2020年10月刊行予定)に投稿した(現在、審査中)。 以上の手順で、ほぼ予定通りの研究を実施できた。よって、研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
北海道立文書館、函館市中央図書館、国立公文書館、国立国会図書館等において資料調査を実施し、資料調査に基づいて、全国地方教育史学会第43回大会(2020年5月24日、兵庫県・甲南女子大学)において「開拓使函館支庁・函館県における学校経費確保策の展開」をテーマとして研究報告を実施し、学会での議論を参考にさらに資料調査を重ねた上で研究成果を論文化し、学会誌等に投稿する予定であった。 しかしながら、新型コロナウィルス感染症の感染拡大のため、資料調査先の多くは臨時閉館等で資料利用が不可能な状況であり、今後の資料調査の見通しが立たない状況である。研究報告を予定していた全国地方教育史学会第43回大会は延期または中止となり、今年度は開催しないことの決定がなされた。 本年度の研究課題の進め方については、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴う社会状況を注視しながら、以下の手順を取ることとする。①現在収集済みの資料に基づいて研究論文の作成を進める。②資料利用が可能になったアーカイヴズ・図書館等から順次、資料調査を開始する。③資料調査に基づき論文を修正・完成し学会誌等に投稿する。 なお、本年度中にアーカイヴズ・図書館等で必要な資料調査を十分に行なえない場合や、関係学会が学会誌刊行の予定を延期・中止する事態が生じた場合は、今年度中に可能な限り研究を進め、来年度以降、必要な資料調査を実施し、学会における研究報告や論文投稿等により研究成果を発表することとする。
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