研究課題/領域番号 |
18K02331
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中嶋 哲彦 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (40221444)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 教育福祉 / 子どもの貧困 |
研究実績の概要 |
日本国内における子どもの貧困対策は現在、2010年に制定された子どもの貧困対策の推進に関する法律(以下、子どもの貧困対策推進法)を軸に進められている。しかし、この法律では、立法政策上の目的である「子どもの貧困」が概念として定義されておらず、相対的貧困概念に基づく子どもの貧困率(child poverty rate)が貧困の現況を把握するための指標の一つとして掲げられているのみである。この背景には、子どもの貧困対策推進法の目標が「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう」にすることに限定され、子どもが属する世帯の経済的困窮の解消を目的とするものではないことが関係している。つまり、子どもの貧困対策推進法においては、「子どもの貧困」はその属する世帯の経済的困窮とは一旦切り離されている。 このため、所得再分配を強化して子どもの属する世帯の経済生活を一定以上の水準で安定化させることによって、貧困状態にある世帯の割合を削減する施策に消極的な姿勢が強く現れる一方、学習支援や子ども食堂などの施策が強調されることとなる。これらには、学習機会や食事や栄養の提供に留まらず、子どもの人間的・社会的成長の機会を確保するという意味での子どもの居場所づくりという意味があることは確認されなければならないが、世帯の経済的困窮の解消が射程に入れられていないことには固有の問題がある。 しかし、子どもの貧困対策推進法の制定以來5年にわたって上記の枠組みに基づく政策が進められているため、子どもの貧困に関する市民の認識枠組みが上記の枠組みに誘導されている可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属する研究科及び附属学校の管理職に就任し、大学改革関連の予想外の業務が多く発生したため、当初は夏季休業中に予定した海外調査を2019年度に延期するなどの支障が生じた。しかし、本研究課題とは別に、所属する名古屋大学から2018年度総長裁量経費を得て進めることとなった海外調査(フィンランド)において、副次的に本研究に関連する聴き取り調査を実施することができ、現在収集した資料などの分析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の申請後、採択までの間に、エストニアにおける教育・福祉政策に注目すべき点があることが判明した。このため、現在はエストニアについても基礎的な情報の収集し検討している。これは申請書には記載していなかったことであるが、検討結果によっては、予算も勘案しつつ、海外での調査先にエストニアを追加し、または変更することを考えている。 また、現在、子どもの貧困対策の推進に関する法律の改正と、子供の貧困対策大綱の改定に向けて、国会及び内閣府において検討が進められており、とくに前者における議論の状況を追跡している。ここには、貧困と福祉に関する社会意識が鮮明に反映しているので、本研究の一環としてこの分析を位置づける予定である。 なお、2018年度中に行った日本国内の子どもの貧困対策に関する研究の成果については、その一部を日本教育法学会定期総会(2019年6月1~2日、和光大学)のシンポジウムにおいて発表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
勤務校における管理業務が臨時的に多く発生したため、当初夏季休業中に実施する予定の海外出張を次年度に延期せざるをえなくなった。2019年度は上記調査研究の実施を最優先とし、学内の業務を調整する。
|