研究課題/領域番号 |
18K02331
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中嶋 哲彦 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (40221444)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 子どもの貧困 / 教育福祉 / フィンランド / 「貧困=自己責任」論 / 子どもの貧困対策の推進に関する法律 / 子供の貧困対策に関する大綱 |
研究実績の概要 |
フィンランドの民間子ども支援組織に対する聴取調査を通じて、①小規模ながら子どもの生活領域についてきわめて多様な支援活動を柔軟に展開する組織がある一方、大規模組織の中には、政府が交付する活動資金によって、子ども支援の内容・方法が一元化し画一的な支援にとどまっていると思われるものもあった。②フィンランドにおける民間子ども支援組織の存在意義については、調査対象組織は異口同音に、社会福祉制度の未整備を強調した。とりわけ、近年の社会保障改革によって制度後退が生じており、本来は社会福祉制度から溢れる困りごとに柔軟に応答すべき民間支援組織の活動が、本来政府が行うべき金銭支援を行なけれない場面が増えていた。③今回調査対象となった民間子ども支援組織は学校教育に直接関連する支援活動は行っておらず、また地方自治体の行政機関内部でも学校教育と社会福祉の活動が峻別されている可能性があることがわかった。この点は、かつて実施したバンター市教育局への調査結果とも符合するものであるが、さらに社会福祉担当部局への追加調査が必要である。「フィンランド=福祉国家」というプロトタイプ的理解を一部修正する必要が痛感された。 他方、2019年における子ども貧困対策推進法改正、及び子供の貧困対策に関する大綱の改定、さらに同年制定された大学等における修学の支援に関する法律の意義と問題点を分析しその成果を学術誌等に公表した。これにより、日本の子どもの貧困対策が、子どもをその直面する経済的困窮に起因する諸困難(貧困)から直ちに離脱させることを目指すものではなく、子どもが学歴獲得を通じて将来において経済的困窮から離脱させようとするものであり、貧困当事者に対して自力で貧困の世代間連鎖を遮断することを要求するものであること、したがって「貧困=自己責任」論の域をでないものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ・ウィルス蔓延のため、昨年度において計画していた海外調査(フィンランド、スコットランド)が行えなかったが、理論研究はほぼ順調に進行し、研究成果を学術誌などの公表している。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者が推進担当理事を務める、日本教育政策学会の課題研究「教育と福祉の統一的保障をめぐる教育政策の課題と展望」において、本研究の成果を踏まえて「子どもの貧困と現代国家-国家イデオロギー批判-」を報告するとともに、2021年6月刊行予定の同学会の年報に同名(予定)の学術論文を発表する。 なお、コロナ・ウィルス蔓延のため、当初計画していた海外調査が行えない可能性があるため、今後の研究の進展状況を踏まえつつ、研究機関の延長申請も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ・ウィルス蔓延により、3月実施に計画していたフィンランド(第二次)とイングランドの調査が実施できなかった。
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