研究課題/領域番号 |
18K02331
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
中嶋 哲彦 愛知工業大学, 工学部, 教授 (40221444)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育福祉 / 子どもの貧困 / 教育政策 |
研究実績の概要 |
2020年度は下記とおり考察を進めた。 近代国家は、子どもの扶養を親の子に対する私的義務として、各世帯が自己責任で遂行すべき私事として組織する一方、子どもの教育については公教育制度を創設してすべての国民に対して就学を義務づけた。近代国家は、この場面では子どもを個として家族から抽出し、国民として国家に帰属させ、国家的利益に適合的な規範意識と思考様式を内面化させ、国家に対する義務を遂行する国民を育成しなければならなかった。また、資本主義的新興産業の労働力需要に応答するため、所属する家族的・共同体的経営の内部での活用を前提とし特定の労働内容に特化されていた労働力の再生産を、家族的・共同体的経営から抽出して学校教育に取り込むことで、多様な産業労働に活用可能な労働力を育成するとともに、この過程を通じて子どもを家族的・共同体的経営から切り離しその労働力を流動化させなければならなかった。こうして、本来一体的な養育を扶養と教育に切り分け、扶養を親の責任領域に残す一方、子どもの教育を国家の事務として吸収した。 このような、子どもの養育が不要と教育が分裂し、近代国家は前者を私事とする一方、後者を公教育制度に取り込んだ。ただし、その際の教育費の公私負担区分は国及び歴史段階によって異なり、無償を基本とする福祉国家的教育費制度が存在する一方、義務教育及び中等教育の「無償制」を授業料に限定し、高等教育については私費負担を原則とする国も存在する。後者の場合、子どもの教育機会は基本的に親・世帯の所得・資産に依存し、子どもの貧困対策においても貧困の状態にある子ども自身に対する国家としての人権保障(幸福追求権、健康で文化的な最低限度の生活を営み権利、学習権・教育を受ける権利)の範疇では捉えられておらず、子どもの扶養義務を負う親に対する「支援」と位置づけられるにとどまるところに、理念的・制度的限界が存在する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は海外での調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症蔓延のため、年度内の実施を断念し、研究期間の延長を申請した。 他方、研究計画を変更し、理論研究に力点をおいて研究を進め、日本教育政策学会大会で研究成果を発表するとともに、2021年7月刊行予定の同学会年報に論文が掲載される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に計画していた国内外調査については、感染症の状況を考慮しつつ、引き続き可能性を追求する。 しかし、困難な状況が続くものと思われるので、2020年に展開した理論研究を継続していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査を計画していたが、新型コロナウイルス感染症拡大のため中止し、2020年度は理論研究に力点を置いた。2021年度は引き続き海外調査の可能性を追求する。
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