本研究の目的は、インクルーシブを鍵概念とした先駆的な実践を展開しているドイツ・ブレーメン州における研究および実践動向に着目しながら、インクルーシブな社会を実現する学校教育の原理と構造を明らかにすることである。 最終年度である2022年度においては、これまでの研究で明らかになってきたRoland zu Bremen Oberschule(ローランド上級学校;以下、RzBOと略す)の実践を分析する論点、すなわち、「始業前の時間における自治的活動への参加」や「『生徒起業』を中心とした学習プログラム」、さらには「子どもの権利行使を支える手段としてのICTの活用」といった論点について、日本の生活指導実践との比較を通して再検討を行った。 この作業を通して、共に生きるに値する地域を創造していく主人公として子どもたちを育てていくためには、学校が秘める福祉的機能が十全に発揮されることが重要であること、またその福祉的機能は子どもたちへの「サービスの提供」によって発揮されるのではなく、子どもたちが種々の社会制作へ参加する過程のなかで学校の福祉的機能が十全に発揮されるようになっていくことを明らかにした。 また、このような学校の福祉的機能の十全な発揮に関わって、RzBOにおいては、インクルージョンの思想を実践的に深化・発展させていく多職種協働、すなわち、教育学あるいは特別支援教育学を学んだ教師たちに加え、言葉の指導の専門家やソーシャルワーカー、移民の背景がある子どもに対するドイツ語教授の専門家たちが共同して授業づくり、学校づくりに参加していくといった多職種協働が重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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