研究課題/領域番号 |
18K02334
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
藤原 忠雄 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (30467683)
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研究分担者 |
高木 亮 就実大学, 教育学部, 准教授 (70521996)
波多江 俊介 熊本学園大学, 商学部, 講師 (70733715)
清水 安夫 国際基督教大学, 教養学部, 上級准教授 (00306515)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教職キャリア / キャリア発達段階 / キャリア発達課題 / キャリア発達上の危機 / 学校メンタルヘルス |
研究実績の概要 |
研究計画では“教師の発達段階全体像の検討”(平成30~31年度中)と“各段階における具体的キャリア分岐の検討”(平成30年度~32年度),“介入余地の検討”(平成31年度~32年度)という3領域での検討を示している。計画通り平成30年度に着手したものは前2領域である。 “教師の発達段階全体像の検討”については平成28年ごろより「6段階の教師の発達課題仮説」(教職以前の時期の0段階を含めれば7段階)の提案を行い主に6つの発達課題に重点を置き査読誌掲載を果たしている(藤原・高木2017『学校メンタルヘルス』20掲載論文)。この論文及びその反論・批評に関する論文や研究発表を集め10人前後の寄稿をまとめた出版を計画し議論を行った。また,平成31年1月日本学校改善学会においてキャリア全体を把握可能な研究方法論に注目した企画セッションを開催した。また,来年度以降報告できるものとしてライフライン法やTEM,自由記述マッピング法などの教員免許更新講習や一斉研修で運用可能な質的調査法の実用方法論の案を固めることができた。 “各段階における具体的キャリア分岐の検討”については発達段階の6段階である程度の客観性が確保できつつある見通しを得たことで具体的議論が進んでいる。具体的には,時間軸(X軸)を客観的時間ではなく主観的時間とし6段階を一つの区切りとすることとした。日本学校改善学会セッションで会場の研究者や臨床家,現職教職員からも概ね肯定的な反応が得られた。平成30年度は小中教師ら12名の聞取り・描画・量的調査を実施し,時間軸ごとのキャリアの変化や分岐,それらの背景となる原動力について議論を行っている。幸福度や段階ごとの職や人生の課題,動機づけ,出来事などを議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教師のキャリアつまり職業生活最大40年をできるだけ客観的に分析検討するという困難な課題を本研究計画は題材としている。しかし,複数の学会の研究推進委員会や実践推進委員会の協力とともに研究分担者だけでなく,研究協力者として高田純(香川大学),長谷守紘(愛知県中学校教諭)や神林寿幸(明星大学)の貢献により順調に成果を挙げている。特に,懸案であった聞取りと連動した描画調査方法の簡易化・一定の量的議論可能性に見通しが付いた点は大きな成果である。 平成29年度までに高校教諭と養護教諭における複数の事例を基に“6段階の教師の発達段階仮説”を査読論文掲載し,批判的論考収集を行ってきた。平成30年度から本助成の支援を得たことで上記の書籍化と未検討の教職種の調査着手ができた点が単年度実績である。書籍化は前述の査読論文の批判的論考著者と連絡をとり1冊の書籍として現仮説モデルの成果と課題をまとめた原稿整理ができた。平成31年度中の出版を目指して助成申請済みである。新調査着手は本研究企画参加研究者で手分けを行い,10名以上の小学校,中学校,特別支援学校教師・教師経験者の調査に着手できた。特にこの調査は聞取りと描画といった質的調査とリッカート法などを用いた量的調査を併用した時間のかかる情量の多い取り組みである。現在は各調査担当者がデータの取りまとめを行っている状況である。 国際的な情報収集は清水安夫(国際基督教大学)が担当し現段階では本研究企画が個性的な研究であることを確認した。しかし,国際学会での発表申請が現段階の成果では認められなかったため、平成31年度以降に国際展開の在り方の再検討を行う必要が生じるなど課題もある。 以上を総合し“おおむね順調”な研究進展状況にあると自己評価を行う。
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今後の研究の推進方策 |
第一領域である“発達段階全体像の検討”については平成30年度までに“6段階の教師の発達段階仮説”の価値と課題・注意点を130頁程度にまとめた書籍原稿を整理できた。この高校教諭・養護教諭を対象とした論考の校正に向けた著者12名の議論を行うことが平成31年度の課題である。 また,第一領域とともに第二領域“各段階特に分岐の検討”については現在,同一の聞取り・描画・リッカート測定による小学校・中学校・特別支援学校教諭対象調査10名分が分析段階である。(ア)平成31年度以降に小学校・中学校・特別支援学校教諭において“6段階の教師の発達段階仮説”が成立するか否かとその留意点や課題の把握,(イ)質的調査法(聞取りや描画法)の改善,(ウ)キャリアの長い時間間隔の区分けや分岐・転機の原動力となる要素(例えば幸福感やテーマ観,公私の出来事など)の各専門領域の研究者・臨床家との学際的議論,の3点が課題である。 特に,私生活や公私の人間関係は発達課題やキャリアの分岐点に大きな影響を与えながらも,「調査に公にできない」や「人に言えない」,「思い出したくもない」などの“研究対象に挙がりにくい重さ”が調査の中で顕在化した。“その配慮”と“それでも科学的測定”の議論が現在の争点となっている。 第三領域“介入余地の検討”については現在分析中の調査成果とその発展大規模調査を経て教職をめぐる政策や行政,学校経営,個人的キャリア適応努力で対応可能かどうかを平成31年度以降議論していくことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度研究成果に関わる実績が質的中小規模調査とその分析の際の研究方法論の改善にウエイトを置いた。計画していた大規模調査や海外情報収集・発信のための出費があまり執行されなかった。そのため、若干の使用額のズレが生じている。 平成31年度は、調査および発表を3年間で予定している通りに遂行するため、一部ずれ込んだ予算を適切かつ確実に遂行する。
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