研究課題/領域番号 |
18K02336
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
村山 詩帆 佐賀大学, 全学教育機構, 准教授 (30380786)
|
研究分担者 |
伊井 義人 藤女子大学, 人間生活学部, 教授 (10326605)
植田 みどり 国立教育政策研究所, 教育政策・評価研究部, 総括研究官 (20380785)
小島 佐恵子 玉川大学, 教育学部, 准教授 (40434196)
丸山 和昭 名古屋大学, 高等教育研究センター, 准教授 (20582886)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 教育のサービス化 / グローバル化 / 地域主義と地域化 / 民営化のプロセス / 地域変容 |
研究実績の概要 |
平成期に入って以降、18歳人口は急激に減少へと転じたものの、これとは対照的に教育・学習支援業では従業者が概ね増加する傾向にある。未成年が主な利用者である幼稚園や小中学校、高等学校・中等教育学校や学習塾、保育所をみても、やはり従業者は増加している。少なくとも労働市場としての教育分野は、18歳人口減少期においても縮小していない。「ゆとり教育」への反動から学力低下が問題化するなど、教育分野のデマンドを下支えした可能性が考えられるが、より重要なのは、教育サービスのサプライサイドの民営化が進んでいる点である。ただし、教育・学習支援業全体では民営率の上昇は緩やかであり、義務教育段階にある小中学校の場合、民営率はいずれも10%未満でしかない。幼稚園や保育所に関しては民営化が著しく、平成8年から平成26年の間に幼稚園は60%弱から約65%に、保育所は50%弱から約70%に達している。地方公共団体区分の別に民営率を調べると、概ね人口の集中する地域ほど民営化が目立つ。 日本の義務教育は、後期中等教育にくらべて選択的な就学機会が少ないが、人口減少期を迎えて以降もそのシェアは漸増する傾向にある。こうした選択的な就学機会の発展過程における公私間の構造変化と地域社会への浸透過程を実証的に検討した結果、(1)初等教育や前期中等教育の選択的な就学機会はシェアこそ小さいものの、前者は戦後を通して、後者は人口減少期に増えている。(2)後期中等教育では人口変動に応じて選択的な就学機会のシェアを増減させていたが、平成期に入りシェアを伸ばし続けている。(3)小中学校の設置基準には一定の規制効果があるが、高等学校設置基準の改正による構造変化は認められない。(4)義務教育段階では人口増加期に都市部への選択的な就学機会の集積が起こり、減少期に地方へと分散する、などが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
グローバル・ナショナル・ローカルの3つの位相間の関係性に注目した国外調査、実証分析を進めてきた。地域の教育機会としての収容力と私立学校、地方財政や教育行財政との複雑な依存関係、異なるレベルの地域間格差が入れ子状にローカルを形成し、民間セクター主導による「地域化」のみならず、公共セクターを通して私教育費負担を緩和する「地域主義」のプロセス、特殊性の強い進路トラックの海外展開などの知見を得ている。また、教育のサービス化が専門職性に対して逆理的に作用する転換が観察された。 これらの調査研究を通して、国家間のみならず地域間の比較制度分析を体系化するための統合的なデータベースの構築に必要となる資料・データ等の収集を進めており、OECD加盟国や戦後日本の時系列的な諸関係の構造変化を分析できるデータベースを構築している。また、日本の通信制課程への進学状況についても、過去10年分の時系列的な市町村集計データとして整備しており、COVID-19の影響下にある公設民営学校のEdTech事業などとの比較分析に利活用できるなど、新たな教育改革の潮流を射程に捉える準備を同時に整えている。 しかしながら、個票データの入手は各国内の研究に制約され、民族や地域別の集計が可能な市販のオンデマンド集計システムであるオーストラリアのTable Builderのように、高額の手数料が発生する場合が少なくない。台湾の『全國統計資料』に関しては、台北市立図書館等に所在を確認していたものの、COVID-19に起因する渡航制限によって、収集することがほぼ不可能になった。このため、地域レベルに配慮した実証的な国家間の比較制度分析については断念せざるをえなくなった。
|
今後の研究の推進方策 |
高額の手数料が発生するデータベースを用いた分析は、令和4年度科学研究費助成事業基盤研究(C)(一般)に採択された「グローバル化における教育機関の展開過程と地域変容に関する比較制度分析」によって実施することとし、ほぼ同じ地域レベルでの実証的な比較制度分析が可能であることが見込まれる台湾の『全國統計資料』を収集し、日本の『学校基本調査』などを用いた分析と同様の手法を適用する。また、必要に応じて日本の国勢調査等についても有料のオーダーメード集計を積極的に利用したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大により海外渡航が制限されたことを受け、国内では入手できない資料・データ収集などの調査研究活動を断念せざるを得なくなった。前年度までの調査により、地域レベルの時系列比較を可能とする資料・データの詳細と所在はすでに調べていたため、渡航制限の緩和を期待したものの、年度を通して極めて困難な状況にあった。その結果、海外渡航を伴う調査研究に使用する予定であった費用については、次年度使用額とするのが望ましいと判断するに至った。 次年度に海外渡航制限が緩和されることがあれば、短期間であっても渡航して最低限の資料・データを収集することとし、次年度使用額は主として海外渡航、成果発表の費用に充てる。海外渡航制限が難しい状況であった場合、海外の民間企業が提供する地域データを部分的に購入するなど、欠損するデータの補完に努め、データベース構築や報告書の作成など成果発表の費用として使用する。
|