研究課題/領域番号 |
18K02339
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
清水 一彦 山梨大学, その他部局等, 理事 (20167448)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アーティキュレーション / 教育制度改革 / 改革原理 |
研究実績の概要 |
本研究は、接続関係としてのアーティキュレーションの基本理念と改革原理を明らかにすることを目的としている。本年度は、とくにアーティキュレーション研究の教育学的課題とともに、制度改革のための原理を明らかにした。得られた知見は次の通りである。 1.教育学研究の課題(1)個別の学校段階ごとの研究に加え、学校段階間の接続や移行期の問題を取り上げた研究を推進する必要がある。(2)接続問題の理念としてのアーティキュレーションは、アメリカの19世紀末の単線型学校体系樹立後に登場した概念であるので、アーティキュレーションの理念研究はアメリカの学校制度発達史から学ぶことが適当である。(3)接続問題は、学校段階間あるいは学校段階内部の違いによって異なる特性を有することから、各学校の特質を十分に吟味する必要がある。(4)接続問題は、アーティキュレーションの作業領域が広範囲で多岐にわたっているので、研究課題の設定とともに、対象とする領域を絞って追究する必要がある。つまり、構造的側面、内容的側面、あるいは運営的側面のそれぞれも幅広い事項を含んでいる。(5)アーティキュレーションの特質の一つとして、「一つの接続問題が解決されればまた次の新たな問題が生じる」ということを踏まえれば、接続問題の対象は無限に続くことになるため、研究に終わりはないことを認識すべきである。 2.改革の原理・原則 アーティキュレーションの3つの研究領域・課題に即して挙げれば、(1)構造的側面については開放性・選択性、(2)内容的側面については共通化、生活化、個性化、(3)運営的側面については親密性、協働化、を抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教育学あるいは教育制度学研究において、教育体系の内在的構造の分析は必ずしも十分に行われてこなかった。その要因の一つは、教育体系の部分相互の接続や統合に関する政策的課題の認識の遅れにあったと言える。その根拠としては、戦後わが国に導入された単線型学校体系において学校段階間の接続の作業が行われることなく、半世紀以上経った1999年にようやく政策課題として取り上げられたという事実がある。また、その間の学校段階内部における多様化方策にもかかわらず、部分相互の統合の認識が薄れたままになっている状況にも見られる。別言すれば、単線型学校体系におけるアーティキュレーション(接続)の欠如である。 本研究では、これまでアーティキュレーション研究の先進国であるアメリカにおいてその歴史的成立及び変容過程をまとめる中でその基本理念を明らかにすることができた。また、本年度は戦後わが国の6・3・3制の学校体系成立で課題となったアーティキュレーションのその後の歴史的変遷における問題点を明らかにしながら、制度改革の原理を定立することができた。 その意味では、この間のコロナ禍の影響を受けつつも、本研究は比較的順調に進んできていると評価することができる。今後は、具体的な制度改革の政策提言に向けた作業を残すのみとなった。
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今後の研究の推進方策 |
何よりも義務教育においては子どもの発達する権利や学習する権利を死守しなければならない。学校教育現場におけるいじめの問題は、改革特区や義務教育の弾力化によってではなく、根本的には区切りの変更を中心とした教育制度の区切りの見直しを考えなければならない。まさしく、それはアーティキュレーションの作業課題である。 これまで義務教育学校におけるいじめなどの深刻な問題の要因分析は、教育学をはじめ社会学や心理学などの分野でも数多く研究対象とされてきた。しかし、これらの多くは統計的な処理に頼りながら、子ども集団の分析を通じていじめの構造を解明しようとしたものである。近年、教師の存在がいじめを構成する不可欠な要素である点を指摘するものもわずかにみられたが、文部科学省の実態統計をみるまでもなく、いじめの構造や教師の問題あるいは学校経営の問題を超え、現行の教育制度の存在がいじめ等の問題行動を構成する不可分な要素であると考える。こうした認識に立ち、6・3・3制に代わる新たな制度的区分の導入を図ることが必要であると考えている。子どもの心の教育は、教育の本質的な問題であり、心の抑圧をなくす新しい義務教育制度への転換が今日の義務教育をめぐる最大の課題であるからである。 今後、アーティキュレーションの基本理念と改革原理に基づき、いじめをなくす学校段階間の区切りの変更に関わる政策提言が大きな課題となる。別言すれば、「移行期教育」の創造である。
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次年度使用額が生じた理由 |
長びくコロナ禍により国内外への調査研究の機会が制限され、現場の大学の実情調査が出来なかった。 今後の政策提言に繋げるためには、教育制度研究を進める教育関係者の意見や声を聞く機会が不可欠である。そのための旅費及び最終報告書の印刷経費を必要とする。
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