研究課題/領域番号 |
18K02343
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研究機関 | 開智国際大学 |
研究代表者 |
八尾坂 修 開智国際大学, 教育学部, 教授 (20157952)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育長養成 / 職能開発 / 離職 / インダクション / 日本の教育長属性 |
研究実績の概要 |
アメリカにおける教育長の離職の構造要因と職能開発の状況に着目すると以下の点が明らかとなった。 まず,教育長にとって現在の職を離れることを意味する離職は,新たな教育長ポストなどへの異動(move)と職を辞すること(exit)の側面があるが,平均6-7年の在職期間である。ただし,都市教育長の在職期間は郊外や村落学区よりも短いという含意がある。教育長の回転ドアのような離職は学区マネジメントの崩壊,職員のモラール,業務の財源,コミュニティサポートの低下,学校風土,生徒の学力へのネガティブな影響を及ぼす可能性があることが指摘されるのである。 離職の構造要因を様々な研究成果から捉えると,「学区の特徴」,「教育委員会の特徴」,「教育長の特性」,「教育長の職務遂行能力」の4つのカテゴリーがある。これらのカテゴリーに存在する要因(例えばストレス,コンフリクト,プレステージ,給与,有能さ,子供のテスト成績など)が複合的に教育長自身の離職の決断,あるいは教育委員会による雇用満了の決定という,離職をもたらすのである。 このような課題のなかで教育長のキャリア定着とともにリーダーシップ能力向上,社会的役割の促進,学区の改善効果をねらいとして,現職教育長,特に新任教育長の職能成長の機会が図られてきたが,通常は教育長免許状の更新・上進制と連結して大学での単位取得や州・学区主催の研修会と連結している。その際,州・学区主催の研修会は,全米学校行政職協会(ASSA)の州支部と連携して実施されている場合が多い。 この点,マサチューセッツ州,テキサス州,ケンタッキー州のインダクション(新任教育長の研修)は義務的な職能開発プログラムである。特にケンタッキー州はインダクションプログラムが体系的に構造化されており,画期的な試みと評されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカの教育長の免許資格要件について,全州の免許規程集を分析し,要求される学位,養成プログラムについて質保証を高めるべき課題を把握できた。 また、更新制・上進制との関わりで職能開発の機会が求められ,その際,メンタリング制度(実績のある教育長経験者によるサポート,相談,コーチング)を導入している州が多いことを見い出した。 この点,教育長の離職(新たな教育長ポストなどへの異動と職を辞すること)の防止がメンタリングを伴う職能開発への重要な背景であった。 これに対して,マサチューセッツ州,テキサス州,ケンタッキー州のインダクションは新任教育長の免許資格との関わりでの義務的な職能開発プログラムである。特にケンタッキー州が画期的な試みと評されるのは,“次世代リーダーシップシリーズ”というインダクションプログラムが体系的に構造化されている点である。すなわち,新任教育長の個別学習計画(ILP)をサポートするため,主としてエグゼクティブリーダーシップコーチ,メンター教育長,教育委員会リエゾンから成るILPチームの協働的役割があげられる。また,新任教育長の学区改善計画,新たな学区課題を踏まえた年間スケジュールに基づく専門学習(14項目)などの個別学習計画のパフォーマンス状況について,ケンタッキー州独自のリーダーシップに焦点化した7つの有効性基準に基づき,新任教育長が自己評価を行い,自身のパフォーマンスのエビデンスを提供する点にある。 しかもインダクション実施方法も伝統的な対面式による研修,個別のメンタリングのほかに,遠隔操作によるオンラインコミュニティ内での参加者間の交流,ライブでのウェブセミナーなどの情報活用はわが国における新たな現職研修方法の在り方を考える手がかりとなることの示唆を得た。
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今後の研究の推進方策 |
わが国では今日,新任教育長に焦点を当てた研修は特段試みられていない。教育長(教育行政幹部職)を対象に一定の専門的学習の履修を求める資格(サーティフィケート)制度が導入されてもよい時期ではないかと考える。その際,各県で新任・若手教育長のためのOG・OB教育長によるメンタリングの機会も設定されることも望まれる。 今後の研究方策としては,アメリカの校長と教育長の免許資格要件の同質性・異質性を探るとともに,新任校長,新任教育長に対するインダクションとメンタリングシステムの特徴を明らかにし,わが国の教育行政指導職への職能開発のあり方への手がかりとしたい。 また昨年度はコロナ禍のため,アメリカ実地調査が不可能であったが,今年度は教育長会の実際のインダクションプログラムについてインタビュー調査を通して情報を入手し,実態(拠り所)を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) コロナの影響により,国内外での文献収集作業が滞ったこと,アメリカでの調査が不可能であったこと,学会がZoom会議になり,出張がなくなったこと。 (使用計画) 研究目的を遂行する上での新たな文献入手と学会大会参加への費用として使用する。
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