研究課題/領域番号 |
18K02347
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
井藤 元 東京理科大学, 教育支援機構, 准教授 (20616263)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シュタイナー教育 / 教員養成 / 芸術教育 / 道徳教育 / フォルメン / ぬらし絵 |
研究実績の概要 |
2019年度は、シュタイナー教育における教師の働きかけの意味を科学的に裏付けるべく、フォルメン線描、ぬらし絵、オイリュトミーおよびシュタイナー教育における音楽(楽器演奏)の場面において、実践者の脳波がいかなる状態になっているかを測定した。シュタイナー教育で行われている独自の実践において、教師は子どもたちに対して細心の注意を払い、実践へと誘う。そうした諸実践において、実践者のうちにいかなる体験が生じているのか、客観的なデータをもとに分析を試みた。その成果は、研究業績欄に記した2本の査読論文および1冊の著作のうちに結実した。『美の朝焼けを通って―シュタイナーの芸術観』(イザラ書房、2019年)においては、日本を代表するオイリュトミストの脳波測定結果を掲載した。また、『ワークで学ぶ教育の方法と技術』(ナカニシヤ出版、2019年)において、オルタナティブ教育の代表格である、シュタイナー教育とサドベリー教育について解説を行った。また2019年は、シュタイナー学校創設100周年にあたる年であり、シュタイナー教育への注目が集まっていたのだが、教育実践とそれを支える思想をわかりやすく解説する本、『マンガでやさしくわかるシュタイナー教育』(日本能率協会マネジメントセンター、2019年)を刊行した。さらに、教職課程用テキスト『ワークで学ぶ教育学【増補改訂版】』および『ワークで学ぶ道徳教育【増補改訂版】』をナカニシヤ出版より刊行した(2020年3月)。また、公教育においてシュタイナー教育を実践することを目指した沖縄シュタイナー教育実践会において研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を通じて、シュタイナー学校の教師が日々の実践において行っていることの意義を客観的データによって示すことができたように思われる。比較対象のため、本研究では、本来画用紙上で行われるぬらし絵やフォルメン線描の実践をデジタルペンタブレット上で行った。本研究の結果、やはりシュタイナー教育が目指していることを達成するには画用紙上で上記の実践を行う必要があることが示された。また、公教育にシュタイナー教育を取り入れることを試みている沖縄シュタイナー教育実践研究会においては、客観的データをつうじてシュタイナー教育の意義を示すことによって、シュタイナー教育を公立学校において実践的に応用してゆく可能性も示すことができたように思う。本研究をつうじて明らかになったことは、シュタイナーの教員養成においても大切にされている事柄と合致している。 もっとも、シュタイナー教育の意義を科学的アプローチで検討するという本研究の試みはい始まったばかりであり、当然ながら課題も多く残されている。2019年度において分析を試みたぬらし絵やオイリュトミー、あるいは音楽(楽器演奏)における実践時の脳波測定において、被験者の数が少ない。今後、本研究を深めていくためには児童、生徒の脳波を測定するということも必要となってくる。また、被験者の数自体も増やし、様々な年齢層において脳波の違いを見ていく実験も進めていきたい。さらには、ぬらし絵の分析においては、二色をもちいたぬらし絵、三色用いたぬらし絵についても実験を試みることが必要となる。以上のテーマを2020年度の課題として見据えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に引き続き、シュタイナー教育の科学的検討を試みたい。とりわけ、シュタイナーの気質論と色彩論の関連性を読み解くことも重要な課題である。シュタイナーは、子どもの気質に合った色を与えることの重要性を説いている。シュタイナーの教育論においては次のような気質の考え方がある。胆汁質は赤色で補色は緑色。多血質は黄色、補色は紫色。粘液質は緑色、補色は赤色。憂鬱質は青色、補色はオレンジ色だと考えられている。つまり、胆汁質の子どもに赤色のものを与えると、補色である緑色が生まれる。緑色の効果によって、胆汁質の子どものうちには心の平静が訪れることになる。逆に粘液質の子どもに緑色のものを与えると、その子のうちに赤色が生じる。そうすると、粘液質の子どものうちに赤色が持つ活動性が生まれる。多血質の子どもに黄色のものを与えた場合、補色である紫色が生まれる。紫色は赤色の活動性と青色の静けさが混ざった色であり、注意が散漫になりがちな多血質の子どものうちに集中状態を生み出すことができる。憂鬱質の子どもに青色のものを与えると、その子どもの中にオレンジ色が生じる。青色は落ち着いた色だが、憂鬱質の子どものうちには生き生きとしたオレンジ色が生まれ、その子のうちに調和がもたらされると考えられている。こうした観点を踏まえつつ、気質論と色彩論の組み合わせをも視野に入れて考察を進めていきたい。また、シュタイナーの音楽教育が体験者にいかなる意義をもたらしているかも脳波測定をつうじて分析していきたい。こうした分析をつうじて、シュタイナー学校の教師を目指す人に対し、シュタイナー教育の実践によって子どものうちに何が生じているかを客観的に示す道が開かれることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス騒動の影響で年度末に予定していた出張が延期となったため。
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