研究課題/領域番号 |
18K02347
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
井藤 元 東京理科大学, 教育支援機構, 教授 (20616263)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シュタイナー教育 / 黒板絵 / 芸術教育 / 教員養成 / オルタナティブ教育 |
研究実績の概要 |
本年度は、シュタイナー学校の教師が授業を行う上で欠くことのできない「黒板絵」に焦点をあて、研究を進めた。その研究成果は、マルグリット・ユーネマン著『黒板絵--シュタイナー・メソッド』の翻訳本(研究協力者の小木曽由佳氏(同志社大学ウェルビーイング研究センター研究員)との共訳、イザラ書房から刊行)のうちに結実した。学年によって教室の色が異なるなど、学校建築をはじめとした教育の環境づくりが重んじられているシュタイナー学校において、黒板は数ある教具の中の主役といっても過言ではない。黒板なしには授業が成立せず、依然として最も重要な舞台装置なのだ。そうした現状は、時代の流れに逆行しているかのようにも見えるが、シュタイナー学校において教師たちは、マジックペンではなく、あくまでもチョークにこだわり続けている。その理由は、長年シュタイナー学校の教員養成に関わり、シュトゥットガルトにできた最初のヴァルドルフ学校(1919年創設)の女生徒でもあった著者ユーネマンによって本書の随所で示されている。本書はシュタイナー学校の担任養成課程で学ぶ教師の卵に向けて著されたものであり、各教科における黒板絵の描き方や考え方が詳細に記されている。シュタイナー学校における教員養成の実態分析を目指す本研究において、教師が黒板とどう向き合い、いかに授業を形作っているのか、その内実を解明することは必須の課題である。ゆえに本年度はシュタイナー学校における黒板絵の意義について、本書の翻訳を通じて明らかにした。 また、2021年度は、日本のシュタイナー学校の教員へのインタビューを遂行した。とりわけ、愛知シュタイナー学園と横浜シュタイナー学園の教師へのインタビューを通じて、シュタイナー学校の教師にはいかなる資質が求められるのかを解き明かした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」欄に記した通り、2021年度は、シュタイナー教育にとって極めて重要な位置づけにある「黒板絵」について、その意義を検討した。とりわけ、マルグリット・ユーネマン著『黒板絵--シュタイナー・メソッド』の翻訳本をイザラ書房より刊行し、黒板という教具の意味を問う中で、シュタイナー教育における授業観を浮き彫りにさせた。研究実績の概要欄にも記した通り、翻訳の刊行にあたっては、小木曽由佳氏(同志社大学ウェルビーイング研究センター研究員)の協力を仰いだ。シュタイナー学校における黒板の意味を問うことは、シュタイナー学校の教員あるいは教員志望者にのみ向けられた問題ではなく、広く学校教育にかかわる者が授業のありようを問い直すうえで重要な問いであるように思われる。黒板にこだわる/捨てるという選択は、それぞれの教師の授業観を浮き彫りにさせると考えられるのである。 また、「研究実績の概要」欄に記した日本各地のシュタイナー学校の教師たちへのインタビューに関してはコロナ禍の影響で、2021年度内に完了することができず、愛知シュタイナー学園と横浜シュタイナー学園の教師に対してのみインタビューを行うことができた。2022年度は、シュタイナー学園や北海道シュタイナー学園、福岡シュタイナー学園など日本国内の他のシュタイナー学校の教員に対してもインタビューを行い、シュタイナー学校の教師の仕事の内実をより多角的に浮き彫りにさせたい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は2021年度に引き続き、日本全国のシュタイナー学校の教師たちへのインタビューを行う予定である。本インタビューを通じて、とりわけ以下の4つの問いに答えることを目指す。1.シュタイナー学校の教師にはどのような資質が求められるのだろうか。2.どのような背景(ライフヒストリー)を持った人がシュタイナー学校の教師を務めているのか。3.シュタイナー学校の教師は日々、どんな仕事を行っているのだろうか。4.どうすればシュタイナー学校の教師になれるのだろうか。 現時点で日本のシュタイナー学校の教師の実態に焦点を当てた文献は見当たらず、公開されている情報も決して多くないため、シュタイナーコミュニティの外部の者がその内実を理解するのは難しい。そこで、2022年度は日本のシュタイナー学校(北海道シュタイナー学園、シュタイナー学園、横浜シュタイナー学園、愛知シュタイナー学園、福岡シュタイナー学園、沖縄シュタイナー学園など)で教鞭をとっている現役教師へのインタビューを通じて、上記の4つの問いへの答えを示したい。最終的には20名程度の教員へのインタビューを通じて、我が国のシュタイナー学校の教師の教育観や子ども観を浮き彫りにさせたい。その研究成果については書籍にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は日本のシュタイナー学校の教員へのインタビューを行い、我が国におけるシュタイナー学校の教員の仕事の内実について解き明かすことを目指したが、コロナの影響もあり、思うようにインタビューの日程調整を行うことができず、研究計画を1年延長せざるを得ない状況となった。2021年度中にインタビューの日程調整を行うことができなかったシュタイナー学校の教員へのインタビューは2022年度中に実施予定である。
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