研究課題/領域番号 |
18K02352
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研究機関 | 志學館大学 |
研究代表者 |
岩橋 恵子 志學館大学, 法学部, 教授 (70248649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フランス / 地域教育政策 / 教育共同体 / パートナーシップ / 修学リズム施策 / アソシアシオン |
研究実績の概要 |
2019年度は、フランス地域教育政策と教育共同体形成の今日的段階の特徴を、地域教育政策の重要な柱である修学リズム施策(具体的には初等学校における週4日制、4.5日制の選択をめぐる施策)を中心に考察した。その際、教育共同体形成の視点から注目される市町村を選定し、4日制あるいは4.5日制の選択のそれぞれの施策決定過程に注目し分析した。要点は以下の通りである。 1)市町村における施策の実質的な決定過程には大きくは3つの形態が見られた。①首長が判断し決定する(例 アンジェ市、ロム市など) ②実質的に学校評議会の多数決に沿って首長が決定する(リール市、モントルイユ市、ラ・シオタ市)。③地域教育計画を教育アクターで策定しそれに沿って首長が決定する(ガイヤック市町村連合、トゥルーズ市など)。 2)①②の事例においては、一定の地域的な教育共同性が培われていた市町村であったものの、修学リズム施策の決定過程においてその共同性を生かせず、学校内の教育共同性に留まり、地域によっては学校間の対立すら内包する結果となっている所も見受けられた。他方③の事例においては、教育共同体の基盤を生かし、住民・教育アクターの学習(子どもの生体リズムの集団的学び合い)、日常的定期的な協議の推進、市町村議員のリーダーシップなどによる地域教育共同体への発展が修学リズム施策を契機として導かれており、その結果、学校教育とともに地域における教育改善が見られるようになっている。 3)以上から地域教育共同体の創造において、①(修学リズムにおいては)子どもの生活の視点にたった教育理念、②教員・アニマトゥ-ル、アソシアシオン、市町村議員のパートナーシップ組織運営、③教育アクター間の学び合いと協議による地域教育計画づくりの重要性が実証的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・フランスにおける教育共同体の形成が、「学校」教育共同体から「地域」教育共同体へ転換しつつあることの実態解明のために設定した事例研究(リール市、ガイヤック市町村連合、トゥールーズ市)により、地域教育共同体の創造において、地域教育計画づくりにおける、①(子どもの生活の視点にたつなどの)地域における教育理念の形成、②教員・アニマトゥ-ル、アソシアシオン、市町村議員のパートナーシップ組織運営、③その土台となる教育アクター間の学び合いと協議の重要性が実証的に確認できた。 ・その他の事例研究(10以上の市町村・機関)を通して、教育共同体形成の今日的到達段階の概観(その中心は依然として「学校」教育共同体形成の段階)とその要因についての考察を進めることができた。 ・上記の成果を学会発表するとともに、論文として執筆中である。 ・以上を踏まえての次回調査の内容準備が整うとともに、理論化の課題が明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
1)フランスにおける教育共同体が、「学校」教育共同体を越えて「地域」教育共同体(地域における教育公共空間)づくりを進める次の事例に焦点をあて、その歴史的・地域的背景、教育理念・実践・組織運営の分析を通して、地域教育共同体創造の今日的意義の理論化を図る。①ガイヤック市町村連合:教育アクター(教員、アニマトゥール、父母、アソシアシオン、町議員)の学び合いと協議によって2019年1月に策定された地域教育計画(Projet Educatif Communautaire)の実施状況・課題および②トゥールーズ市:教育アクターによって実施されている教育議会(Parlement Educatif)の展開とその意義を柱に、各教育アクター間の具体的実践と関係性を実証的に分析する。 2)2年間の研究成果を踏まえて、地域教育政策の誕生と展開が、国民教育および民衆教育(アソシアシオン)に与えた影響についてレビュー・分析を図る。 3)その上で最終的に、地域教育共同体と地域教育政策形成との関連構造の解明(フランス地域教育政策は、共和国教育モデルに包摂される固定された静的なものでなく、一方で共和制教育モデルと地域教育共同体、他方で国家とアソシアシオンの間の緊張関係の交差点に動的に位置付くとする仮説の検証)とその理論化を図る。 3)地域教育政策の日仏比較により、日本の地域教育政策の性格と課題提示を行う。 4)3年間の研究のまとめとして最終報告書を作成する。
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