本研究は、近年フランスで誕生したと評しうる地域教育政策(la politique educative locale)の生成と今日的展開の歴史的意味の実証的構造的解明にある。そしてこれまでは主に地域教育政策の歴史研究を通して、今日の展開がフランス教育の歴史的転換を意味していることの解明を図ると同時に、幾つかの地域の事例研究を行い具体的な地域教育政策の展開の考察を行ってきた。 2022年度は、それら地域の中で、地域教育政策がダイナミックに展開・定着している2つの地域(トゥールーズ市、ガイヤック・グロエ市町村連合)に着目し、事例研究を深め分析した。その要点は以下の通りである。 1)当該地域教育政策に見られるのは、子どもの生活をトータルに捉え、子どもの自由時間を学校時間の単なる延長ではない地域の実態を踏まえた公的活動としての枠組みの形成を志向していることである。そのことは、地方自治体の自律性の強化と同時に、国家の管轄下にある学校との関係の見直し、さらには組み替えをも志向している。2)従って学校の延長ではない公的活動としての子どもの自由時間のための固有の教育学が必要となるとして、職員の養成も含め実践的に現場で開発されている。3)教育政策が、青少年スポーツ政策はもちろん、家族政策や都市政策をも含みこんでの政策として捉えられてきている。4)学校を中心とするアクターに留まらず、トゥールーズ市の市民教育議会制度にみられるように幅広い地域の教育アクターの連帯が図られている。5)「連帯」は、政治対立を回避する単なる連携ではなく、対立や利害を調整して全体を統合し、社会の意志決定を行いこれを実現する政治的連帯が重要である。 こうした具体的な地域教育政策の展開の分析によって、フランス教育政策が大きな転換にたっていることを実証的に示すことができた。さらに、日本の地域教育政策への示唆も得ることができた。
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