第一に、英国における社会的経済的背景に配慮した教育資源の傾斜的配分であるPupil Premiumシステムについて、追加のフィールド調査を行った。その上で、フィールド調査から得られた知見とこれまでの調査研究の成果を統合し、査読論文の執筆を行った(2023年7月公開予定)。 第二に、既に研究成果を公表しているスウェーデンの類似システム(Socioekonomisk resursfordelning)と、日本のシステムを加え、三者のシステムの比較検討を行った。その結果、スウェーデンと英国のシステムについては、複数の価値の組み合わせを構想する制度-社会的公正と効率化の双方を、政策体系・制度の中に意図的に共存させている制度であることを明らかにした。 これらの点から、第三に、我が国の政策オプションの検討・提示を行った。特に、1)社会的公正実現の観点から、現行の一律配分-面の平等に代表される均質的平等/条件整備基準のみでの配分を脱し、それらを基本としながらも、切に必要なニーズの多寡に応じた傾斜的配分を組み合わせること、2)政策における規範実現の追求と、価値序列の検討を行うこと、更にそれによって、複数価値の同時実現を意図的に希求する制度設計を行うこと、3)学校単位での財務ガバナンスとマネジメント力の強化を行うこと、4)学校単位のマネジメントを支える中間支援組織、更にその中間組織が依拠するデータ等の整備を行うことを提言した。 その上で、上記の制度改革を巡っては、少なくとも規範と制度・政策の関係性をめぐる解釈をアクター間で共有することに向き合い、政策選択や優先順位付け、程度の問題を社会的に検討・応答していくことが、我が国においても求められることを示した。
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