研究課題/領域番号 |
18K02358
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
山田 雅彦 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (30254444)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 授業研究 / マルチモーダル分析 / ユニゾン / アルフレッド・シュッツ |
研究実績の概要 |
授業中のリズムが典型的に現れる場面として、児童によるユニゾン(挨拶や音読などで、複数の児童が声をそろえていっせいに発話すること)に着目し、理論的・実証的双方の観点から分析した。 理論面では、ユニゾンを初歩的なアカペラコーラスと見なし、現象学の観点から音楽の共同演奏を分析したアルフレッド・シュッツの理論を手がかりとして、ユニゾンの過程で起こっている出来事を分析し、ユニゾンが半自動的な遂行と難度の高い課題を遂行するための意図的な調整の往還によって精緻化されてゆくこと、その過程で児童間の観察と相互理解が自覚されぬまま充実してゆくことを指摘した。この観点から見るならば、ユニゾンは学級経営の初歩的な手段であると同時に、学級経営への貢献を意図している様々な集団活動の成果が現れる到達点としての性格も帯びている。 実証面では、教員養成課程の学生による模擬授業を録画・録音し、同意の得られた記録についてユニゾンが行われた場面を抽出し、児童役学生と教師役学生のユニゾンへのかかわり方を分析した。 その結果、ユニゾンに教師が及ぼしうる影響の小ささが示唆された。児童は、分析の過程では特定し得なかった何らかの要因によってなぜかすでにユニゾンができるのであり、教師はそのユニゾンに一員として参加することはできても、教師の意思で文言やテンポ、ブレスをコントロールできるのは、児童が教師に合わせようと身構えている時、具体的にはユニゾンした経験がほとんどない文言で教師の範読のブレスの位置をコピーした例に限られていた。また、ユニゾンの文言をコントロールするキーパーソンとして、児童役の中でキューを出す役割を担う者(日直)の役割が注目に値することが示唆された。ただし、日直がコントロールできていたのはユニゾンの文言だけで、ユニゾンのテンポを意図的に修正することの困難さがうかがえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ユニゾンはごく短時間で授業中のリズムのありさまを端的にあらわすため、実証的な分析の対象として適切であり、ユニゾンに注目したことで当研究が具体的な成果を挙げる十分な見通しが立った。その反面、ユニゾンが授業全体の流れの中ではほとんど一瞬に近い短時間で生起するものであり、しかもすべての授業で生起するとは限らないため、実際の小中学校で授業を録画することで十分なデータを収集することは困難であり、しかもユニゾンに注目した授業研究がほとんどないことから学校の協力を得られる可能性も低い。この点を考慮した次善の策として、大学生による模擬授業でのユニゾンを分析対象とすることとした。43例のデータが集まっており、小学校では珍しくないユニゾンに合わせられない児童こそいないものの、教師役学生が不慣れであるせいもあってユニゾンが順調に達成されない場面も見いだされた。授業中のユニゾンというほとんど注目されてこなかった現象の分析としては、質・量ともに満足のゆくデータである。 平行してユニゾンの理論的な考察も行っており、今後理論・実証双方からの発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、「児童は教師の働きかけにかかわりなくなぜかユニゾンができる」との知見にとどまっており、当面は「なぜユニゾンができるのか」の検討を試みる。 ただし、Covid19感染の終息の目処が立たないため、複数の協力者が対面で集合することによるユニゾンの実施が可能であるかどうかは不透明である。可能であれば大学生から協力者を募り、参加者全員の発話を録画・録音しながらユニゾンによる音読を求め、相互に相手の発話に配慮しながらユニゾンを達成してゆく過程の分析を目指す。 一方、対面による集合が困難である場合、オンライン授業等の機会を活用して、テレビ会議など従来と異なる条件下でのユニゾンの達成過程について分析を目指す。これにより、オンライン授業を対面授業の違いを明らかにし、オンライン授業に特有の配慮についての基礎情報を得られる見込みである。 並行して、現時点では口頭発表にとどまっているこれまでの成果の論文化を目指す。理論研究は日本学級経営学会、実証研究は社会言語科学会の学会誌への投稿を準備中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
口頭発表に申し込んだ第44回社会言語科学会研究大会が、Covid19感染拡大の影響で対面での開催を中止(発表自体は成立)したため、参加費並びに旅費が支出できなくなったため。
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