研究課題/領域番号 |
18K02374
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研究機関 | 人間環境大学 |
研究代表者 |
宮田 延実 人間環境大学, 看護学部, 准教授 (10742520)
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研究分担者 |
折出 健二 人間環境大学, 看護学部, 特任教授 (20109367)
森川 英子 人間環境大学, 看護学部, 准教授 (20413388)
松原 紀子 人間環境大学, 看護学部, 講師 (70760289)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 死生観 / 生まれ変わり / 心理的な危機 |
研究実績の概要 |
30年度の研究に関しては、いのちに関する子どもの認識が発達により変化することや死後再生についての考え方を先行研究や文献にあたってきた。その一方で、いじめによる自死事例や自死防止の施策などの文献収集を行い、研究グループにて、心理的危機に陥った子どもの状況と死生観について議論をしてきた。これらの成果を基に、質問紙を作成し、子どもを対象にした調査を行った。調査項目は、①死生観に関すること、②いじめなどの心理的危機に遭ったときのコーピング方略、③子ども自身が感じている自他に関する内容である。所属大学の研究倫理委員会審査を経て、質問紙調査の協力が得られた小学校2校の4年生から6年生と中学校1校の1年生から3年生の約500名を対象に調査を実施した。また、児童生徒が生まれ変わりを支持するようになった理由について自由記述で回答を求めたところ、その2割弱から回答があった。 これらの集計したデータを整理し、若干の考察を加えた資料を基に、調査協力校と該当教育委員会にて結果の説明会を行った。その概要の一部は次の通りである。 小学生の約52%、中学生の約45%が「生まれ変わり」を肯定的に捉えていた。長寿の期待、死の不安、天国や地獄の存在は、過半数が肯定していた。また、実現したい夢をもち、生きる幸せを感じる児童生徒が多かった。生きるつらさを感じる児童生徒は少ないものの、標準偏差値から、つらさを感じる児童生徒は一定数存在するという結果であった。 児童生徒の死生観について、研究グループでは、死んでも生き返るゲームやテレビ番組、地獄絵や輪廻転生などの仏教イメージなどの様々な情報が入り交じった影響があるとの可能性について議論した。初年度のこれらの成果を踏まえて、引き続き「生まれ変わり」を肯定するような死生観がどのようにして子どもに内面化されたかを明らかにすることが次年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、子どもが「死んでしまいたい」といった心理的危機に陥ったとき、「生まれ変わり」を信じることが与える影響について検討し、その有効な支援策を提案すること にある。研究方策として、心理的危機に陥る要因や回復に至る過程を量的研究により分析するとともに、「生まれ変わり」を信じる子どもの考えを聴き取る質的研究を通して彼らの思考や認知の特徴を明らかにし、心理的危機への支援策を総合的に検討し提案をすることであった。 平成30年度は、いじめ自死を防ぐための課題と方法を究明している文献収集や講演会への参加、仏教に詳しい研究者からの情報入手ができ、研究倫理審査を経て質問紙調査が完成し、調査を行うことができた。約500名のデータが収集でき、各調査協力校への結果説明をすることができた。しかし、質問紙の内容が「死」に関するという理由で協力校は限られ、児童生徒の追跡調査はできない状況である。そのため、平成31年度以降の研究目標とした量的データと質的データをつきあわせた個々の児童生徒の検討は限定的とならざるを得ない。 この点を補う意味からも、いじめにより自死に向かおうとする心理的危機を背負った児童生徒や関係者からのヒアリングを行ったり、「生まれ変わり」を支持する背景を他国との比較から追究したりするなど、当初計画とは異なった調査対象や研究方策の変更を検討する必要が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、4割を超える子どもが、「生まれ変わり」を支持していたとする調査結果を踏まえ、彼らの価値観や死生観が形成された背景等の解明が今後の研究の視点となった。仏教に詳しい研究者によると、生まれ変わるとする宗派は少数派であり、必ずしも人間に生まれ変わるとは限らないと指摘する。霊の存在を否定する教えや死後は無になると教える宗派もあるという。わが国の一般市民の多くは、因果応報や輪廻転生などの断片的な仏教用語を日常会話や子どものしつけに用いたり、葬儀や盆などの行事で仏教に触れたりしているが、仏教の教義を理解する機会もなく、仏教を背景とした死生観が形成されたとは考えにくい。また、学校での道徳授業には、いのちを大切にする題材や将来の夢や希望、生き方に関する題材はあるが、死生観を扱う題材は見られない。わが国では、死後再生をイメージするゲームやテレビ番組などの影響もない交ぜとなり、紆余曲折を経て死後世界観が大人から子どもに伝えられ、内面化されていると推察する。 他方、仏教を厚く信仰するタイでは、僧侶が学校での道徳授業を担い、国民は僧侶を敬い、仏教を尊重している。この国の一般市民の仏教信仰の様子と「生まれ変わり」思想や死生観、そして、いじめや自死について調査し、対比することは、わが国の子どもの死生観を考察するために非常に意義あることである。そのために、タイの市民の仏教信仰の様子と死生観、タイの学校教育における道徳授業に関する調査を研究の推進方策に加える。また、いじめにより「死んでしまいたい」といった心理的危機に陥る要因や回復に至る過程や有効な支援策を探るために、研究方策として、危機に陥ったときの状況を本人や関係者からのヒアリングの可能性を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に向けて研究推進の方策について変更の可能性が発生したため、一部支出を保留したため。
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