研究課題/領域番号 |
18K02374
|
研究機関 | 人間環境大学 |
研究代表者 |
宮田 延実 人間環境大学, 看護学部, 教授 (10742520)
|
研究分担者 |
折出 健二 人間環境大学, 看護学部, 研究員 (20109367)
森川 英子 人間環境大学, 看護学部, 准教授 (20413388)
松原 紀子 人間環境大学, 看護学部, 准教授 (70760289)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 死生観 / 生まれ変わり / 心理的危機 / タイ / 仏教 |
研究実績の概要 |
日本の子どもの価値観や死生観の形成には仏教が背景にあると考え、仏教国タイとの比較調査を行った。都会化があまり進んでいないチェンライの5小中学校を訪問し、授業視察、仏教教育の事情を学校長や教員、生徒からヒアリングを行い、質問紙調査を実施した。 タイの学校での視察やヒアリングによると、道徳は社会科授業で行われ、いのちを大切にする題材や将来の夢や希望、生き方に関する題材はあるが、死生観を扱う題材はない。しかし、善を生きる上での重要な価値として、善行を重ねる程、次はよりよく生まれるという教えを浸透させている。また、日常的にこの教えを実践するタイ人は多い。集合的無意識を形成していると考えられるジャータカ物語に出てくる「よく生きる」ことが、タイ国民の共通の価値であると考えられる。 一方、タイ国の小学校4年~6年生306名、中学校1年~3年生314名を対象にした質問紙調査では、タイの子どもは、「生まれ変わり」よりも、天国や地獄の存在を信じる傾向が日本の子どもに比べ、有意に高い結果であった。生まれ変わることに関して、タイの子どもは、善行を積んでよりよく生まれたいと願うことに対して、日本の子どもは、単に生まれ変われると思うという根拠の曖昧さがあった。また、ヒアリングを行ったタイ人の中学生3年生は、「生まれ変わり」や天国地獄の存在の信念は様々であったが、善行を積むことは共通の価値として認識していた。 善行が少ないと次はよい人生でないため、自死は選択しにくい。また、善行が多いと賞賛があり、これも自死は選択しにくいと考えることができる。このように、ヒアリングと質問紙調査の結果から、日タイの子どもの意識について大体の比較はできたが、さらなる分析検討を行う必要がある。また、日本の教育では、生きることをどう教えているか、道徳教育や家庭教育についても明らかにしたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の質問紙調査は、当該研究倫理委員会で承認されたが、「死」に関する内容のため、調査協力校での質問紙調査の実施はできても、児童生徒の追跡調査は制限される状況であった。そのため、当初の研究目標とした量的データと質的データをつきあわせる個々の児童生徒の検討は限定的とならざるを得なかった。また、いじめにより自死に向かおうとする心理的危機を背負った児童生徒や関係者からのヒアリングを試みたが、代理人から未だ承諾が得られない状況である。 そこで、当初計画とは異なった調査対象や研究方策の変更を検討した結果、「生まれ変わり」を支持する背景を他国との比較から追究する研究方策を採った。対象国はタイである。令和元年度に5小中学校でのヒアリング調査を実施することができた。ここで、質問紙調査の実施について説明依頼の手続きをして、後日の実施を予定したが、当日に実施許可が出たので、調査を速やかに実施することができた。そのため、日タイのデータ比較が進みし、遅れていた研究計画が進展してきた。
|
今後の研究の推進方策 |
タイでのヒアリングと質問紙調査を実施した結果、日本とタイの子どもの間に、生まれ変わりを信じる比率に有意差はないが、タイの子どもは、天国や地獄の存在を信じる傾向が有意に高かった。「生まれ変わり」の信念は様々だが、タイの子どもは、善行を積むことは共通の価値であった。したがって、善行が少ないと次はよい人生でないため、自死は選択しない。また、善行が多いと賞賛があり、これも自死は選択しないということが考えられる。他方、日本の子どもは「生まれ変わり」の根拠に曖昧さがある。 そこで、最終年度の研究の推進方策として、質問紙データやヒアリングデータをさらに分析し、「生まれ変わり」に対する日タイの子どもの認識について検討する。また、いじめにより自死に向かおうとする心理的危機を背負った児童生徒や関係者からのヒアリングを再度試みる。そして、自死選択をするのではなく、道徳教育や家庭教育において自己再生ができることや生きることをどう教えるかを明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、タイ国の調査結果に関する議論を重点的に行ったので、支出は減少となった。次年度は最終年度のため、学会発表と研究者との議論を一層進める。そのために、旅費や研究成果物を製本する費用を支出する計画である。
|