研究課題/領域番号 |
18K02378
|
研究機関 | 筑紫女学園大学 |
研究代表者 |
松本 和寿 筑紫女学園大学, 人間科学部, 教授 (50613824)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 児童指導要録 / 累加記録摘要 / 学籍簿 / 標準検査 / 標準学力検査 |
研究実績の概要 |
2018年度は「標準検査の記録」欄が設けられた戦後最初の指導要録を対象とした研究に取り組んだ。具体的には、1948(昭和23)年の「児童学籍簿」に続き、翌年文部省が公表された中等学校の新学籍簿である「累加記録摘要」を対象とし、その特質を明らかにするとともに、次期指導要録への改訂の経緯などを手がかりにして、戦後教育改革期の学籍簿・指導要録に期待された機能とその変化について明らかにした。なお、主たる史料として国立教育政策研究所「戦後教育資料:大島文義旧蔵文書」を用いた。 文部省は戦後初めての学籍簿改訂に際し、「小学校学籍簿」を「個々の児童について、全体的に、継続的に、その発達の経過を記録し、その指導上必要な原簿となるもの」と説明している。これは、新学籍簿の教育的機能を重視するとの意味であり、戦後教育改革の理念を具体化する道具として活用する旨を示したものである。また、「累加記録摘要」も「学籍簿を教育簿へ」転換することを目指すものであった。「累加記録摘要」は中等学校の枠組で作成され、その公表は「小学校学籍簿」が1948(昭和23)年11月の文部省学校教育局長による通知「小学校学籍簿について」により行われたこととは異なり、学籍簿作成委員会が記した図書『中学校・高等学校の生徒指導』に掲載する形で行われた。 その後、「累加記録摘要」は「生徒指導要録」と名称変更され、同じく名称変更された「児童指導要録」と共に1955(昭和30)年に改訂される。しかし、このとき文部省はその性格を「児童生徒の学籍ならびに指導の過程、結果の要約を記録し、指導および外部に対する証明等のために役立つ簡明な原簿」とし、教育的機能よりも対外証明的な役割、言わば戸籍簿的機能に軸足を置くとした。つまり、1955(昭和30)年の指導要録改訂では、「累加記録摘要」の趣旨と異なる立場が示されたことになる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、2018年度に標準学力検査に係る技術的課題に関する検討を行う予定であった。具体的には、標準学力検査の種類や問題の作成主体および実施の背景等を、市販された標準学力検査問題や都道府県が作成した標準学力検査問題、教育雑誌に掲載された記事などを基に分析することとしていた。 しかし、その際発掘・検討した、『教育統計』(文部省)、『測定と評価』(日本文化科学社)、『児童心理』(金子書房)他の記事から、まずこの時期の指導と評価の関係性や学力観について明らかにすることに目的を修正した。 また、国立教育政策研究所「戦後教育資料:大島文義旧蔵文書」の中に、文部省担当課における指導要録改訂に関する打ち合わせの記録を発見したことから、「指導と評価を一連のものとする」ツールとしての学籍簿・指導要録の存在に着目し、1948(昭和23)年公表の「児童学籍簿」や翌年の「累加記録摘要」等の検討に取り組むこととした。 そのため、当初の研究計画に比べて若干の遅れが生じていると言える。ただし、このことにより研究の方向性や主たる研究方法の大幅な変更は生じない見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、2018年度に行った研究を継続するとともに、研究計画で当初行う予定であった標準学力検査に係る技術的課題に関する検討や、それに続き行う予定であった教育的課題に関する検討を行うこととしたい。特に後者については、学力検査問題の標準化と学力の基準性に対する考え方や学校における指導との関連を、この期の教育雑誌に掲載された記事や学籍簿・指導要録およびその解説、実際の指導要録の記載内容などを基に分析する。 なお、主な資料として『新簿学籍の記入法』金子書房 1948、『生徒指導要録記入資料』新光閣 1951、この時期の小学校の指導要録の記載内容などを用いる予定である。 また、研究成果については2019年度、2020年度にそれぞれ全国学会発表と論文投稿を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、資料収集に係る「旅費」は概ね計画に沿った支出であったが、「物品費」により購入予定であった古書が国立国会図書館他で複写可能であったため、「その他」として資料複写代金を措置した。これにより次年度使用額が生じている。
|