本研究は、市場経済システムへの本格的な参入が始まり、自律・自立した経済主体へと社会化されていく初期段階に当たる10歳代前半の子どもを対象として、その経済・金融社会化のプロセスを特に金銭面でのしつけを含む親との間の相互作用と子ども自身のエージェンシーに留意しながら実証的に明らかにしていくことを目的として計画された。これまでの金融リテラシー研究は、そのほとんどが大学生以上の成人に対してなされており、金融社会化の初期段階を対象としたものはほとんどない。他方、既存の研究においても若年期における金融リテラシーの状態が後年にも影響を与えることを示唆するものがあり、既存の研究の対象層を更に遡って子どもの金融社会化プロセス(の初期段階)を明らかにする必要がある。 本研究では、小学5年生から中学1年生の子どもを持つ母親とその当該子をペアで対象とした調査を実施し、回顧的ではない子ども期の金融的な行動や意識についてのデータを子どもから直接収集するとともに、その家庭環境に関するデータを母親から収集した。調査方法はインターネット調査会社の調査パネルを利用したWeb調査票に基づくものであり、2020年3月に3768組の回答を得た。 これまでの分析では以下の点が明らかになっている。(1)小学校高学年の段階で定期・定額のお小遣いを与えるという親の金融社会化行動に対しては、世帯所得と父親学歴、新聞購読という階層的な属性が影響を与えていた。(2)他方、子供の物質主義的な態度については、家庭の社会経済的地位に関する諸変数は影響をほとんど与えていないこと、子供の性別によって影響力を持つ変数が異なるものがあり子供の金融社会化プロセスにジェンダーバイアスが存在する可能性が示唆された。
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