本研究の目的は,日本社会の階層構造がどのように形成されているかを精緻に分析したうえで,教育における格差のメカニズムを明らかにすることであった。最終年度の2020年度は,(1)教育機会の格差のメカニズムに関する分析,(2)教育と職業の関連に関する分析を並行して進めた。 (1)教育機会の格差のメカニズムについて,主に2つの観点から検討した。1つは,高校生とその母親を対象とした調査(「高校生と母親調査,2012」とその追跡調査)を用い,近年の奨学金利用者の増加を考慮したうえで,高等教育進学の出身階層間格差について検討した。その結果,出身階層に関する複数の変数が高等教育進学に影響していること,親学歴と家庭の経済的資源は交互作用効果を持ち,親の学歴が高ければ経済的資源の効果が弱まること,そうした資源間の補償には奨学金利用が関与していること,などが明らかとなった。加えて,教育の格差は長期的な過程を経て形成されることを踏まえ,早い時点からの格差形成をとらえるために,「中学生と母親パネル調査」を用い,高校進学についても分析した。 他方,(2)社会階層構造については,教育と職業の関連について長期および短期の動きを検討した。まず,「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」の蓄積から長期的趨勢を分析した結果,大学卒の就職者数が増えたため大卒者が管理職に到達するのは困難化したのに対し,専門職はそれ自体も拡大したため,専門職従事率が減少しなかったことが明らかとなった。加えて,近年の動きとして3時点(平成19年,24年,29年)の「就業構造基本調査」を用い,近年の若年大卒者が就く職業的特徴を検討した。学歴と職業小分類の組み合わせを,従業上の地位等も含めて探索的に分析した結果,若年層の大卒者は医療系専門職や情報処理技術者に就く割合・規模が大きい傾向にあることが明らかになった。
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