今年度においても新型コロナウイルス感染症の蔓延から中国への入国制限が継続され、現地での資料収集すら実施できず、当初の計画通りの研究の遂行を断念せざるを得ない状況にあった。そこで、今年度においてもこれまで収集した資料、データ及びインターネットで入手した論文等に基づき、以下の考察を行った。 1年目から4年目までは近年の高等職業教育制度の概要、特徴、改革動向の整理、2009年に開設された専門職大学院にみられる特質の考察、従来の大学院教育とは異なる専門的知識・技能を習得した人材育成目標が掲げられ、企業と連携した実践的な取組みが導入されていることなどを指摘した。また、専門職大学院が大幅な量的拡大を遂げる一方、就職難という社会情勢も相俟って、全日制専門職大学院卒の就職率がふるわない点にあること等の課題も考察した。 以上の考察をふまえ、5年目と6年目では中国国内で発表された論文のレビューを行い、四点の課題を指摘したい。第一に、専門職大学院と研究系大学院の入試が同時期に行われ、問題もほぼ同じであり二つの大学院の相違点が明確でない。第二に、専門職学位と学術学院は労働市場における明確な区別がなく、職業資格と連動していない場合も多い。第三に、多くの専門職大学院は、従来型の研究系大学院を調整・統合した形で設置されているため、実践的な志向性をもたない教員が多い。第四に、近年、専門職大学院における単位が認定される形での学外実習が展開されているが、今後、十分な時間数の確保などの改革が喫緊の課題となっている。 以上、近年の中国では、専門性の高いスキルを養成するために専門職大学院の質保証が議論されてきたが、実態をみると専門職学位の特色が十分に発揮されておらず、今後の専門職大学院教育のあり方を検討する必要性のあることが分かった。
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