本研究は、教育制度や政策のあり方が異なる集団に対していかに公正であるかという視点から、質的経験としてのジェンダー平等を学術的に捉え直すことを目的としている。具体的には、アフリカ社会において、親やコミュニティが学校と「関わる」際の学校運営関係者の認識、参加の形態、過程においてジェンダーはどのような影響を及ぼしているか、そして学校運営のあり方がどのように学習成果や継続的学習におけるジェンダー格差と関連しているのかというリサーチクエスチョンを立てた。 主な研究結果としては、(1)母親の学歴が子どもの成績の把握については正の影響を持っているものの、参加の方法や程度については逆に負の影響を持っている場合があること、(2)ジェンダー観については、性別の知性の平等性を支持する割合が、親、教師、生徒のすべてにおいて大多数を占める一方で、家庭内における明確な性別役割分業が学業に影響を及ぼしていること、(3)親の学校参加に関する意思決定については、学校への財政的貢献についての意思決定は父親に任されることが一般的であり、就学、財政、進学等の最終的な意思決定にジェンダー力学が働くことで、女性の参加が一般的な集会を通した学校運営が難しいこと、(4)学校の会合への出席と学校の成績に関する認識は男女に統計的に有意な差は見られないことものの、女性は正確な情報を持ち、参加に対する自信が大きいほど会合に参加すること、が分かった。特に、ケニア農村部対象地域においては、女性の学歴が低いほど会合に参加する傾向にあり、女性の方が学歴よりも、より確かな情報や自信といったエンパワーメントの要素への反応が良いことが分かった。近年住民参加型学校運営との関連が注目される社会関係資本と学校教育の成果との関わりにおけるジェンダーの影響は、先行研究で示唆されているような直線的な関係でなく、より複雑な構造を持っていることが示唆される。
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