最終年度に実施した研究成果は,第1に学校区の予算編成過程における一般財源保証債による債券発行による累積債務上限が州行政法等により規制されていることにより学校区側での財政健全性が制度的に担保されていること,第2に,財政力が弱い大都市学校区の一般財源保証債の発行に影響を与える要件として,学校区が作成・決議した資本投資計画の妥当性を州議会(州資本委員会等)が独自に資本投資の財政的根拠を精査する手続きが存在すること,第3に,州学校資本補助金における州と学校区の政府間財政関係はイリノイ州の事例にみるように協調的である一方,大都市アトランタ学校区を擁するジョージア州やマイアミ学校区を擁するフロリダ州等では対立的であり,むしろ対立的である場合が一般的であることを州議会の議会資料やヒアリング等で明らかにした. 本研究の全期間を通じて,学校区の財政力が一般基金(教員給与等に代表される経常的収入と支出を管理)で大きな学校区間格差を生むことは既に実証済であったが,資本基金および債務管理基金におけるそれは未確認であった.本研究では,一般基金に比べて資本基金および債務管理基金の方が大都市学校区への州政府による再分配としての州補助金が配分される傾向が強く,特に州議会によって資本投資の精査が直接的に実施される仕組みがあることを明らかにしたことは本研究の大きな研究成果である.中央集権型の財政調整が根付かないとされてきたアメリカ財政でも,上位政府による地域間再分配つまり地方自治体間の財政格差平準化の仕組みや考え方は「皆無」というわけではなく,学校区の地方自治を基本原理とする初等中等教育がアメリカ財政の注目すべきフロントラインに立つ存在であることを確認した.
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