2020年度までは公的な児童生徒理解観・生徒指導観と対比する形で学校教師の実践についての聞き取りを基礎とした調査を展開した。2021年度は北海道の沿岸地域の「浜文化」に着目し、地域の特性に根差した生徒指導観の探求を行った。2020年度までの研究は学術論文、学会発表等で成果化をしており、2021年度の研究は今後の成果化を目指している。 以上を踏まえつつ、2022年度は発展的課題として、公的な言説領域において児童生徒理解観の産出過程を明らかにすべく、「旭川市中学生自殺事件」を対象とした探求を開始した。本事件を社会問題化したweb週刊誌及び関連書籍、新聞記事、社会問題化する以前から本件を扱っていた地元紙を収集し自殺した中学生の「苦痛」の理解をめぐった言説の様相を把握した。そのうえで本件を長期担当した新聞記者2名に聞き取りを行い、報道において生徒の「苦痛」とその理解がどのように扱われ、また扱われないか、さらにはこの社会問題がどのように展開し、また展開しえなかったかの一端を明らかにした。 伝統的かつ支配的な児童生徒理解観と対照的に、教師たちは子どもたちの「真実」に到達することよりも解釈のバリエーションを多く用意することに重きうることを明らかにしたのが一つの成果であるが、さらにそれは地域の特性という社会的文脈に常に依存するものであること(2021年度調査)、さらに支配的な児童生徒理解観が産出されるマス・メディアにおいては、支配的な言説を再生産する一方で媒体の特性や社会状況に応じた形態でその産出の過程がなされ、個別性・地域性の取捨選択が行われうることを明らかにできた(2022年度調査)。 一方当初予定していた学校教育現場の実践観察や、歴史的学校資料の収集といった活動は新型コロナウイルス流行の影響から断念せざるをえず、具体的場面・歴史的側面からの横断的研究という探求は十分果たせなかった。
|