研究課題/領域番号 |
18K02411
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
金子 真理子 東京学芸大学, 次世代教育研究センター, 教授 (70334464)
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研究分担者 |
三石 初雄 東京学芸大学, 次世代教育研究センター, 名誉教授 (10157547)
坂井 俊樹 開智国際大学, 教育学部, 教授 (10186992)
原子 栄一郎 東京学芸大学, 環境教育研究センター, 教授 (70272630)
小林 晋平 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (70513901)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育目的 / カリキュラム / 理科 / 社会科 / 環境教育 / 教員養成 / 未来のカリキュラム / コロナ禍 |
研究実績の概要 |
学校教育は、何のために、いかなる知識を生産し、伝え、教えるべきなのだろうか。本研究は、学びの目的について、「未来のカリキュラム」という概念を用いて検討する。M.F.D.ヤング(2002)によれば、「未来のカリキュラム」の概念は、未来の社会の概念、それを作りだし維持するためのスキル、知識、姿勢、そしてこのような社会を現実的に可能なものとするような、知識の諸形態間の関係を含んでいる。それゆえに、カリキュラム論争は、異なる目的をめぐるものであり、私たちが期待する各々に多様な社会観をめぐる論争となる。 公害、震災、原発事故、新型コロナウイルス感染症の流行などは、私たちがリスク社会に生きていることを自覚させた。原子は、現在の持続不可能な社会を支えている教育を考え直し、その向きを変えることを現代環境教育の根本課題として捉え、そのような教育は「私」から出発する問い―私はどこから来たのか?私は何者か?私はどこへ行くのか?―に向き合うものと考察し、ユネスコのFutures of Educationイニシアチブ等を参照しつつ、カリキュラムの検討を行っている。坂井は、日韓歴史認識問題について、1990年代から2000年代にかけて日本と韓国の研究者とともに日韓歴史共通教材の作成に携わった実績がある。その経験を踏まえた上で、近年の「日韓対立」克服のための前提条件の検討と論理づくりに取り組み、教育実践に着手した。小林は、「物理学の考え方」を通して、宇宙という遠くの世界で起こっている現象が身のまわりで見られる現象と本質的に同じであることがわかったとき、世界の見え方が変わることを、自らの実践を通して明らかにした。三石は、近代学校の位置と役割の変容にともない教育の目的がどのように変化してきたかを、それぞれの時代の論点や論者とともに整理した上で、現代の授業改革論を批判的に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定期的な研究会を通して、研究代表者と分担者がそれぞれの学問分野である、教育社会学、環境教育学、歴史学および社会科教育学、物理学、教育学および理科教育学の立場から、正規のカリキュラムのみならず、それへの対抗的なカリキュラムを含め、さまざまな事例を持ち寄って検討した。現行のカリキュラムやその改革動向を相対化するとともに、次年度の研究計画を明確にした。
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今後の研究の推進方策 |
私たちが期待する各々に多様な社会観をめぐる論争としてのカリキュラム論争(M.F.D.ヤング2002)は、これまでどのように起こり、いかなるインパクトをもたらしたのか。 次年度は第一に、研究代表者および研究分担者がそれぞれの専門分野のカリキュラムについて、特定の歴史的局面に焦点を当てて、「未来のカリキュラム」がいかに論じられ、何がもたらされたのかを、資料・史料・データ等を用いて分析して持ち寄る。 第二に、分野や時代が異なる事例を比較したときに、「未来のカリキュラム」をめぐる人びとの論争にはそれぞれどのような意味があるのか、共通点と相違点を検討する。カリキュラム論争の影響については、たとえば正規のカリキュラムの変容、あるいはオルタナティブな学び舎の誕生などが考えられる。逆に、既存のカリキュラムに対する対抗的なカリキュラムが生まれ消えていった歴史も考えられる。こうしたカリキュラムをめぐる相克を明らかにすることで、現代のカリキュラムや改革動向を自明視せず、オルタナティブな可能性にも目を向けることができるだろう。 たとえば金子の場合は、1950年代の東京学芸大学のカリキュラムと学生生活に焦点をあてる予定である。そこでは、「大学における教員養成」を構築しようとする大学側の営みとともに、学生側が大学に対する不満や批判のみならず、全教ゼミ等の自主的な学びを自ら展開していった歴史がある。当時の人々の教員養成カリキュラムをめぐる論争に光を当てることで、「未来のカリキュラム」をめぐる論争がどのように起こり、いかなる影響をもたらしたのかを分析する。さらに、研究分担者の持ち寄る事例の検討と合わせ、成果の書籍化と公開セミナーの開催を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、研究会や公開セミナーをオンラインで行ったことや、調査に出向くことが難しかったことなどから、費用が縮減された。翌年度への繰り越し分は、インタビューデータの反訳や研究成果の公開(報告書等の作成や公開セミナーの開催)などに使用する。
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