研究課題/領域番号 |
18K02412
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
長谷川 哲也 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (90631854)
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研究分担者 |
内田 良 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 准教授 (50432282)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 公共図書館 / 地方 / 図書館政策 / 機能分化 / 利用者アンケート / サービス認知 |
研究実績の概要 |
本研究の主たる目的は,公共図書館の資源をめぐる地域間格差の実態とその変動を明らかにすることであり,本年度も昨年度までと同様,日本図書館協会が発行している『日本の図書館―統計と名簿』や地方自治体の各種基本調査等をもとに,公共図書館の地域間格差や,図書館間の資源格差との対応関係を分析した。その結果,地域間格差およびそれと自治体の階層性について,明確な傾向を把握することはできなかった。一方で昨年度までの研究では,公共図書館の地域間格差や自治体との階層性を緩和する一つの要因として,自治体個別の公共図書館政策に注目をした調査・分析を行っており,その知見として,今日の公共図書館には,従来の図書資料の提供だけではなく,多様な情報の発信や「居場所」機能といった新たな役割が期待されていることを見出した。 そこで本年度は,図書館という場自体の価値を利用者目線で明らかにするため,A市図書館から提供された利用者アンケートの個票データを用いて,同図書館で展開されている各種サービスに対する利用者の認知を分析した。その結果,各種サービスの認知には,属性による差が確認されないものも多くあり,図書館サービスが一様に各利用者の視界に入っていると言える一方,例えば子ども関連のサービスでは女性の30~40代においてサービスの認知が高いなど,一部のサービスで属性による違いも確認された。こうした結果から,地方における公共図書館の戦略的な機能分化とその利用者層との関連性の実態が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,『日本の図書館―統計と名簿』や地方自治体の各種基本調査等をもとに,公共図書館の地域間格差や,図書館間の資源格差との対応関係を分析したが,当初予想したような地域間格差や自治体の階層性について,明確な傾向を把握することはできなかった。しかしながら,昨年度までの研究から,公共図書館の地域間格差や自治体との階層性を緩和する一つの要因として,自治体個別の公共図書館政策に注目した調査・分析へとシフトしており,多様な情報の発信や「居場所」機能といった新たな役割が期待されていることを見出した。 本年度は,特定の公共図書館を対象とした訪問調査と,当該図書館の利用者アンケートを実施する予定であったが,新型コロナウイルス感染症の影響によりこれらの調査が実施できなかった。そこで,A市図書館が業務の一環として毎年実施している利用者アンケート調査の個票データの提供を受け,各種図書館サービスに対する利用者の認知を分析した。昨年度に得られた図書館目線での機能分化と,本年度に得られた利用者目線でのサービス認知により,新旧様々なサービスが入り乱れる今日の公共図書館における役割と期待の実態が明らかとなった。 以上のように,従来の図書資料等の数量を扱った全国的なマクロデータからは,当初想定したような格差の知見は得られなかったものの,地方の公共図書館というミクロレベルでの調査・分析に移行することができた。また,本年度は新型コロナウイルス感染症の影響により,訪問調査や利用者アンケート調査を実施することができなかったが,A市図書館から提供された利用者アンケートの個票データを分析することで,本研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,『日本の図書館―統計と名簿』や地方自治体の各種基本調査等のマクロデータを分析したところ,公共図書館の地域間格差や自治体の階層性について,当初予想していたような知見を得ることはできなかった。しかしながら,こうした地域間格差や自治体との階層性を緩和する一つの要因として,公共図書館個別の政策や取り組みに注目することで,今日の公共図書館には,多様な情報の発信や「居場所」機能といった新たな役割が期待されていることを見いだした。本年度はさらに詳細な内実を明らかにするため,特定の公共図書館を対象とした利用者アンケート調査を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により,アンケート調査を実施することができなかった。そこで,A市図書館が業務の一環として毎年実施している利用者アンケートの個票データから,各種図書館サービスに対する利用者の認知を分析した。 次年度は,本年度に実施できなかった特定の公共図書館を対象とした訪問調査と,当該図書館の利用者アンケートを計画・実施する予定である。ただし,本年度と同様に新型コロナウイルス感染症の影響によりこれらの調査が実施できなかった場合には,すでに入手しているA市図書館の利用者アンケートの個票データをさらに詳細に分析することで,図書館サービスの機能分化と利用者期待との関係を描き出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も既存データの二次分析を中心に行ったため,資料収集にかかる経費やデータ入力等にかかるアルバイト経費が計画よりも少額となった。また本年度は,新型コロナウイルス感染症の影響により,当初計画していた特定の公共図書館を対象とした訪問調査や,当該図書館の利用者アンケート調査,研究分担者等との対面での研究会を実施することができなかったため,それらにかかる経費を使用することができなかった。 次年度は,本年度に実施できなかった特定の公共図書館を対象とした訪問調査と,当該図書館の利用者アンケートを実施する計画であることから,アンケート調査票の印刷経費,データ入力業務の委託経費,データ整理のためのアルバイト経費,分析のための統計ソフトの購入経費などが生じる予定である。また,本年度に実施できなった研究分担者等との対面での研究会も,当初計画より多く実施する計画であることから,旅費などが生じる予定である。
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