研究課題/領域番号 |
18K02417
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研究機関 | 東京福祉大学 |
研究代表者 |
金 龍哲 東京福祉大学, 教育学部, 教授 (20274029)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文化多様性 / 周辺文化 / 文化伝承 / システム変容 / カリキュラム |
研究実績の概要 |
本研究は、グローバル化、市場経済化、情報化などの急激な社会変動を背景に展開されるマイノリティの文化伝承に焦点を当て、その実態を明らかにすると同時に、そうした実践が現行の教育システムに如何なる変容をもたらしているかを、中国西南地域の少数民族が取り組む実践を事例に明らかにしようとするものである。 本研究が対象としているのは、①モソ人の母系社会における若者の意識の変化、ダバ教(土着信仰)の宗教的職能者の後継者問題、②雲南省プミ族が取り組んでいる民族言語(プミ語)の学校におけるカリキュラム化の実践とその課題、プミ族の信仰体系を支えるハングイ(宗教的職能者)の育成を目指したハングイ文化学校とそれに続くハングイ文化コースの現状、③貴州省のトン族の学校で試みられている伝統芸能-「トン族大歌」の教育課程化の実践、④雲南省麗江におけるナシ族の学校で東巴文字の伝承をめぐって展開される民族文化教育の実践、⑤貴州省威寧県のイ族が取り組んでいる宗教的職能者(ピモ)育成学校(畢節イ族双誤職業学校)の設置及び運営、卒業生の現状等を中心とする事例である。本年度は、加えて学校において民族文化教育を担当する教員の養成と研修に関する資料収集を行った。 本研究では、フィールドワークの研究手法を用いて、毎年、現地に赴いて一定期間滞在しながら調査を進めてきたが、2021年度は前年度に引き続き、コロナ感染の拡大を受けて現地調査を行うことができず、主として「中国知網」等を活用した関連資料の収集とリモートワークによるインタビュー等を実施し、それに基づいて研究を進めてきた。また、モソ人の母系社会における伝統文化に関する調査は、リモートを通して現地調整役と調整を行いながら、映像処理(現地語の翻訳)を行い、翻訳作業はほぼ完成している。 調査の結果については、所属学会で口頭発表(オンライン開催)を行い、学会誌に2篇の論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、文化人類学の研究手法を借用し、フィールドに身を置いて行う参与観察やインタビューで得られる一次データ重要視してきたが、当該年度においても前年度と同様、新型コロナの感染状況は改善されに至らず、現地入りを果たすことができなかったので、科研報告書の作成は大幅に遅れる結果となった。 現地入りができない状況下で、出来るだけ現地調インフォーマントの協力を得てリモートによるインタビューを試みたが、現地のネット環境やインフォーマントの対応等に限界があり、「中国知網」などネットでの資料収集が中心となったので、当初予定していた調査が実施できなかった。本研究については、すでに再延長が認められているが、最終年度における研究報告書を作成するにあたっては、この二年間で生じた変化について確認を必要とする新たな課題も浮かび上がっている。また、前年度までに撮影した映像資料の言語処理(現地モソ語の漢語訳)は、現地に協力者(モソ文化博物館職員)に依頼し、ほぼ完成しているが、その報酬については、他のインフォーマントへの票集も含めてまだ未払いの状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方については、新型ウィルスコロナ感染状況をめぐる二つのケースを想定して、最終年度の研究報告書の作成を目指したい。 ①新型ウィルスコロナ感染拡大が終息し、現地調査が実施できる状況にある場合:引き続き、雲南省、四川省、貴州省における少数民族の文化伝承の実践に関する実態調査を実施し、それらの実践が既存のシステム、とりわけ教育システムにもたらす影響を明らかし、システム変容の実態及び文化伝承の新しい仕組みの形成についてその可能性を検証する。今までの調査結果を踏まえて、雲南省プミ族とモソ人、そして貴州省イ族が取り組んでいる宗教的職能者の育成を目指す実践に焦点を当て、それらの実践の持つ意義と新しい文化伝承の在り方、そしてそれらが一種のモデルとして定着することの可能性を探る。一方、トン族の伝統芸能の教育課程化をめぐる諸動向やプミ族の言語保護のための注目すべき実践については、学校教育制度との視点からシステム変容の実態を明らかにする。一方、ナシ族の学校における文化伝承の実践は、注目に値する幾つかの動向がリモート調査で確認されているので、実地調査で検証を加えたい。 ②感染拡大が止まらず現地入りが不可能な場合:昨年度行ってきた文献検索システムの活用による情報収集に加えて、パソコンやスマートフォンを使ってミーティングやインタビュー等をオンラインで実施可能なZoomなど、情報通信技術(ICT)を活用することで、①で挙げた現地調査の効果に近づくよう努める。雲南省社会科学院や寧浪県永寧中学での試行に基づき、リモート調査の実施方法を工夫して出来るだけインフォーマントを対象としたインタビュー調査を確保する。 研究成果は、引き続き比較教育学会、文化人類学会、アジア教育学会、中国四国教育学会、東アジア日本学研究学会等での発表を通して公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、現地調査で必要とされる渡航費、現地滞在費、現地インフォーマントへの報酬等を主な支出項目として計上したものだが、2021年度は新型ウィルスコロナの感染拡大により、現地調査を実施できなかったことによって生じた次年度使用額である。 2022年度は本研究の最終年度に当たるが、現地調査が実施できなかったため科研報告書の作成が大幅に遅れることが予想され、年度末に「科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業期間延長申請書を学術振興会に提出し、令和3年3月に承認を得ている。 次年度は、前述した二つのケース(①コロナ感染拡大が終息した場合、②感染拡大が続く場合)を想定し、それぞれに対応できる対策を講じて当初の研究計画の実現を目指す。
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