2023年度は、ケニアにおける公立小学校と低学費私立学校の現状について、特に2017年から導入されたカリキュラム改革に関する観点から、一週間の現地調査を実施した。調査結果は、上智大学で開催された国際開発学会第34回全国大会で発表し、また学会誌『アフリカ教育研究』第14号にも、これまでの研究蓄積を踏まえ共著で投稿した。 本研究は、ケニアにおける公立小学校の空洞化と低学費私立小学校(ここでは非正規居住区であるスラム地域で増加している無認可校を指す)の急増を、児童の多様化と学校の基準化の観点から比較し、その理由を明らかにするものである。調査結果より、公立校は無償化政策による就学者数の増加により、教育の質が低下し、確かに一見すると就学者数は無認可校を含む私立校へと流れ空洞化しているように見受けられた時期もあった。事実、非正規居住区にある低学費私立校は、その学習環境(机、椅子、衛生設備、教員による資格の有無など)に課題は見られるものの、保護者はあえてこのような学校に児童を就学させている。その理由として、特に低学年の児童にとってスラム郊外にある公立校までの通学距離は長く、必ずしも安全とは言えない通学路を懸念する保護者が多いこと、また、近隣の学校の教職員とは近しい間柄であることから安心して子どもを預けることができること、さらに極貧困層の家庭に対し、無償で衣類や食事の提供を行い、学費を一部免除するなど、公立校では得られない支援を得ることができることが要因となっていた。一方で、小学校修了後の中等学校進学への接続を考え、小学校高学年になると低学費校から公立校へと転校する児童も一定数おり、何を学ぶかよりも、どこで学ぶかがその後の進路と相俟って学校選択に影響を及ぼしていることも明らかになった。
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