TALISショックを契機として、また「働き方改革」の一環として教員の過重労働・長時間労働が、研究としても政策としても重要な案件となっている。しかしながら、近年の教員実態調査からも明らかなように、改善のための施策(中教審答申第213号)には実効性の観点から疑問がある。本研究はこうした状況を背景に、近年示唆に富む知見がみられる労働研究(接客サービス、ケアワーク)を参考に、教員の仕事について「教育労働」「労働過程」という観点から切り込むことを目的とした。 教員の仕事をめぐっては、3極モデル(労働者は顧客に向き合い、顧客の満足等のアウトプットをえるプロセス全体が、管理者から統制される)への視点の転換が最も重要であることが明らかになった。顧客の満足を目指す働きかけの総体(教育の場合は、児童・生徒の満足や成績の上昇)が労働者(教員)の評価につながるという構造そのものが、何よりも問題とされねばならない。3極モデルでは、顧客の満足を高める労働を提供するため活動は多種多様に拡大し、また、それが外部基準や評価に晒されるために、労働は強化される(intensification)。、構造的に、長時間労働・過重労働が惹起されるのである。同時に3極構造でも分業化が進んでいるために、「関係的ケア」(直接顧客に係る領域)と、「非関係的な労働」(直接には対面することのない領域)に労働過程が分化する傾向があり、前者では顧客との関係を築くことに伴う精神的疲労が、後者は「関係から周辺化された専門性の低い労働」に位置づけられことへの問題が浮上している。労働の分業化が、労働へのモチベーションを下げるのである。 コロナ禍によって、研究計画は大幅に遅滞し修正を余儀なくされ、特にデータの収集が困難であったが、「労働過程研究」から得られた上記の知見を用いて、教員の実際の働き方をまとめる作業を継続している。
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