研究課題/領域番号 |
18K02429
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
多賀 太 関西大学, 文学部, 教授 (70284461)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 歴史社会学 / 家庭教育 / 学校教育 / 地域 / 文化的再生産 / 私の履歴書 / 文化人 / 美術家 |
研究実績の概要 |
前年度終了時に修正した計画に従って、自叙伝を材料として大正期生まれの美術家、西洋音楽家、大衆芸能家の輩出過程を分析した。そのうえで、特に美術家に焦点を絞って下記の要領で詳細な分析を行い、その成果を学会で発表し論文に執筆した。 分析対象は、「私の履歴書」を執筆した明治・大正期生まれの美術家全38人とした。自叙伝の記録から、①基本的属性と出自(生年、主な生育地、家族構成と出生順位、親・親族の職業、親の学歴)、②家庭環境と家庭教育(家族の暮らしぶり、美術関連の文化資本・社会関係資本・意図的教育、美術家になることへの家族の意向)、③学校教育(学歴、初等中等学校における美術教育と教師の影響、美術専門教育)、④家庭と学校以外の教育機会(私塾、師弟関係、同人関係、職業内訓練、その他美術に接する機会)を抽出して一覧表に整理し、それに基づいて彼らの輩出課程の特徴を分析した結果、以下が明らかにされた。 家族の影響としては、親が美術と関連のある職業であったり子どもが美術家になることに積極的だったりしたケースは少なかったが、画家以外の家業と関連するジャンルの美術家では、家業継承の延長線上で親が徹底した教育戦略を実行するという古典芸能家との共通点が見いだされた。学校教育の影響としては、画家と彫刻家では専門的教育において東京美術学校が特権的な地位を占めてきた様子がうかがえた一方で、特に画家では、家族が美術に関する文化資本を有していなくても初等中等教育の教師を通じて美術への関心と基礎的素養を高めていた例も目立った。地域の影響については、画家に関しては東京にいることのメリットが非常に大きい様子がうかがえたが、地域産業と結びついた美術ジャンルではむしろ当該地域とのつながりが重要であるケースも少なくなかった。世代による輩出過程の特徴の違いはそれほど見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は3か年で研究が終了する予定だったが、3年目に予定していた女性文化人の輩出過程の分析が完了しなかったため、1年間研究期間を延長した。 それ以外に、研究の進展に伴って次の通り一部研究計画を変更した。今年度の予定のうち、大正期生まれの美術家、西洋音楽家、大衆芸能術家の輩出過程の分析と、同一文化「界」における時代ごとの輩出過程の変遷の分析については計画通りに行った。ただし、分析の結果、西洋音楽家については自叙伝のサンプルが少ないこと、大衆芸能家についてはサブジャンルが多様すぎて集団としての特徴が把握しにくいことが判断されたため、これらのジャンルを単独のテーマとする論文の作成は見送った。その分、美術家について当初の計画以上に広い対象層に対する集中的な分析を行い、画家とそれ以外のジャンルの比較や、大正期生まれに限らず明治期生まれも含めた時代による輩出過程の違いを分析し、その成果を学会発表と複数の論文を通して公表するなど、予想以上の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間延長後の最終年度となる令和3年度には、前年度に完了を予定していて未完了となっている女性文化人の輩出過程の分析を行う。 これまでの男性文化人の分析と同様に、明治・大正期生まれで自叙伝「私の履歴書」を執筆した女性文化人を対象とし、自叙伝の記述を第一次資料として分析を行う。該当者は21人と少なく、しかも様々な文化ジャンルに及んでいることから、数量的に一般的傾向を追うよりも、時代状況と文化ジャンルとジェンダーの交差を分析視角としつつ、すでに完了している男性文化人の分析結果に照らしながら、より質的な分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大により、国内の学会がオンライン方式に変更され、参加を予定していた国際学会も中止となり、旅費支出額が当初の予定から大幅に減少したことと、前年度完了予定だった女性文化人の分析が完了しなかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。次年度使用額は、女性文化人の分析に係る図書購入や資料収集、ならびに学会発表等に充てることを計画している。
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