研究課題/領域番号 |
18K02435
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
滝口 圭子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60368793)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自然 / 生物 / 物理 / 素朴概念 / 科学的リテラシー / 環境構成 / 経験 / 能動性 |
研究実績の概要 |
平成30(2018)年度の研究の目的は,(1)発達に基づく科学の保育実践の系統性を試行的に提案すること,(2)科学の保育実践の本質的な要素及び科学の保育実践が持ち得る意義を整理することであった。(1)はピアジェ(Piaget, J.)の発達段階論と生物の素朴理論(稲垣・波多野,2005)を踏まえる必要がある。ピアジェの発達段階論では幼児期は前操作期に相当し,言葉を用いた思考が可能になるが,アニミズム(物や現象に生命や意識があると考える)や人工論(全ての物や現象は人が作ったと考える)と呼ばれる言動が認められる。更に,視覚的な現実に強くとらわれ,相補的な思考(例えば容器の高さと幅とを同時に考慮する)が難しい。生物の素朴理論については,生物は食べ物や水をとり入れて活動し,余った活力で成長するという理論を5歳までに採用し,生物と無生物を区別する。「私たちが,毎日食べ物を食べるのは,どうしてだと思いますか」という身体現象に対しては,8歳児の6割と大人の多くは「胃や腸のなかで,食べ物の形を変えて体にとり入れるため(機械的因果説明)」という説明を選択するが,6歳児の約半数は「お腹が食べ物から元気がでる力をとるため(生気論的因果説明)」を選択する。科学の保育実践の系統性の確保においては,以上のような幼児の思考の特性を踏まえることが望ましいであろう。次に,子どもの育ちから(2)を考えた場合,子どもの科学的な振る舞いは「(子どもの)本能であり,生きることそのものである」また「最も素朴な自然との出会い方である」といえる。前者については,子どもは生後間もない頃から,自身の身体を使いながら自身が生きる世界を理解し,また内面世界をつくりあげる存在であること,後者については,ヒトも自然の一部であり,子どもは成人に比して自然に近く,(子どもの)科学の原点は自然の中にあることに言及しながら考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書における平成30(2018)年度の研究計画は,(1)文献調査の実施及び(2)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の整理であった。(1)及び(2)の一部については「研究業績の概要」欄に記載した。本項では,(2)に関して,K市内保育者を対象とする質問紙調査の結果の一部を報告する。①「子どもの科学する心は育ったと思うか」について,20-24歳(21名)の回答は「はい」66.7%「いいえ」33.3%であり,25-29歳(29名)は「はい」72.4%「いいえ」27.6%,30-39歳(18名)は「はい」66.7%「いいえ」27.8%「無回答」5.5%,40歳以上(23名)は「はい」60.9%「いいえ」26.1%「どちらでもない」13.0%であった。②「科学を意識して保育をするようになったか」は,全保育者が「はい」と回答した。③「科学を意識するようになって自分が変わったと思うことは何か」は「何でも答えを用意するのではなく,子ども自身が“考える”ことができるよう環境構成や関わりを意識するようになった」「子どもの驚きや発見に,ただ共感するのではなく,背景や視点,心の動きを表情やしぐさ,日頃の行動から推測して考えるようになった」「危ない,やめてほしいと思う行動もすぐには止めず,何をしているのかな?と一歩引いて観察するようになった」等の回答が得られた。④「科学の保育実践で困ることは何か」は,20-24歳と25-29歳は「働きかけやタイミングがわからない」を,30-39歳と40歳以上は「十分に時間がとれない」を多く選択した。⑤「科学の保育実践で大切なことは何か」は,20-24歳,30-39歳,40歳以上は「環境構成」を,25-29歳は「環境構成」「子どもと一緒に楽しめる保育士」を多く選択した。現在のところ,研究計画通りに進んでおり,本研究課題は概ね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
平成31_令和元(2019)年度は,平成30(2018)年度の成果を踏まえつつ,(1)文献調査の実施,(2)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化,(3)科学の保育実践の評価(1年目)に取り組む。(1)については,引き続き文献調査を実施し,「科学の保育実践の本質的な要素」「科学の保育実践が持ち得る意義」「発達に基づく科学の保育実践の系統性」について考察を深める。その際に,ピアジェの発達段階論や生物の素朴理論に基づきながら,科学の保育実践の系統性を整理し,系統的な実践の内容について提案することを想定している。(2)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化については,引き続きK市内保育所の保育を観察し,あるいはK市内保育者により収集された保育における科学に関する実践事例を分析し,保育者や連携研究者との協議を踏まえながら「科学の保育実践の本質的な要素」及び「科学の保育実践が持ち得る意義」を提案する。更に(2)については,金沢大学附属幼稚園年長児が1年を通じて取り組む里山自然体験活動を観察し,収集された事例を分析することを通して得られた知見についても活用していくことを考えている。(3)科学の保育実践の評価(1年目)については,K市内保育所に在籍する幼児を対象に,生物や物理概念の発達に関連する実験調査やインタビュー調査を実施する。また,K市内保育者を対象とする質問紙調査を実施し,科学の保育実践の評価に加え,保育者自身が有する生物や物理概念あるいはそれらの素朴概念について明らかにし,保育者の有する素朴概念と科学の保育実践との関連性について分析及び考察することも考えられる。また,日本教育心理学会,日本発達心理学会,日本保育学会等の関連学会において,研究発表(ポスター発表,口頭発表)に加え,自主企画シンポジウムやラウンドテーブルを企画運営し,研究の成果を公表する予定である。
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