研究課題/領域番号 |
18K02435
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
滝口 圭子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60368793)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 試行の形態 / 乳幼児の反応 / 自然物 / 科学的な現象 / 自然 / 言語化 / 保育 / 科学的リテラシー |
研究実績の概要 |
(1)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化,(2)科学の保育実践の評価を目指した。国立立山青少年自然の家の実践研究事業「立少トントンまなびたい」の幼稚園5歳児の活動を観察した上で,幼児から小学校高学年を対象とする「自然体験を踏まえた環境教育プログラム」の系統性を確認した。幼児の自然体験について,①子どもの興味関心に即した活動の展開,②自然に浸る時間の確保,③体験を通した学びの意味の認識,④子どもの自由な活動の保障のあり方,⑤評価項目の設定の功罪を指摘した。K市保育士会第2ブロックの認定こども園5歳児の自然体験活動を観察した。また,第2ブロック所属園で収集された実践事例を保育者とともに分類,解釈した。K市内大学附属幼稚園の4歳児1名が,独力で大型遊具を組み立てる過程のビデオ録画を踏まえ,保育者は成功や正答への到達を願うあまり試行中の声がけが早くなり,情報を過剰に与える傾向がある可能性が確認された。4歳児の保育者の助言への忠実さから,保育者の声がけがもたらす解放と制約についても議論した。 認定こども園5歳児を対象に,1枚のアベマキの葉について話をするよう伝え,「自然」という言葉の認知を尋ね,言語発達診断検査(田中教育研究所,1979)の語彙検査を実施した。葉に自ら触れた積極群と自ら触れなかった慎重群では,報告内容に差はなかったが,積極群の語彙得点の方が高かった。自然既知群と未知群では,報告内容及び語彙得点に有意差は認められなかった。能動的な探索と語彙獲得との関連性が示唆された。 これまでの研究成果を,日本心理学会第85回大会(ポスター発表)(2021年9月1-8日,オンライン開催),日本発達心理学会第33回大会(ポスター発表,ラウンドテーブル)(2022年3月5-7日,Web開催)において発表した。 田中教育研究所(編)(1979).言語発達診断検査 田研出版株式会社
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
修正後の令和3(2021)年度の研究計画は,(1)科学の保育実践の観察と協議に基づく要素の精緻化,(2)科学の保育実践の評価であった。収集されたデータから,以下の系統性が見出された。①「現象に遭遇した時の子どもの反応」は,3歳未満児(0歳児クラスから2歳児クラス)は「見る」ことから「触る」ことへという確認手段の変容,「発声」から「言葉」へという表出及び伝達手段の変容,指さしを受け取る他者の存在の必要性が,3歳以上児(3歳児クラスから5歳児クラス)は現象の「表現」から「説明」へという表出内容の変容が確認された。②「疑問の解明に向けての試行の形態」は,3歳未満児は「手」の使用から「五感」の使用へという試行手段の変容,「事象の再現」に「他者の行為の再現」が加わるという再現方法の追加が,3歳以上児は「他者の行為の再現」から「自身の仮説の検証」へという検証方法の変容,「個人での検証」から「協同での検証」へという検証する集団の規模の拡大が認められた。 (2)科学の保育実践の評価について,保育者や研究者との協議を通して,以下の点が確認された。まず,保育実践では「子どもが不思議だと思う現象について,自分なりに考える」ことに対する適正な評価が求められ,子どもの考えの科学的な妥当性(のみ)を評価の基準にすることは避けるべきであること,次に,「わからないことが楽しい」「わからないことがわかるようになることが楽しい」という点は乳幼児も児童,生徒も同様だが,保育現場ではその点が認識されにくい一方で,小学校以降は徐々に知識の習得に比重が置かれるようになること,最後に,小学校以降の理科の学習においては,「それまでの体験を踏まえた実感」が必須であり,乳幼児期の体験の評価と確保が肝要であることが確認された。現在のところ,修正された研究計画通りに進んでおり,本研究課題は概ね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
令和4(2022)年度は,(1)収集されたデータの分析と結果の考察及び記述,(2)成果の公開に取り組む。 (1)については,収集されたデータの総合的な分析及び考察を踏まえ,「科学の保育実践の本質的な要素」「科学の保育実践が持ち得る意義」「発達に基づく科学の保育実践の系統性」を記述し,乳幼児の発達を踏まえた科学の保育実践の案出において有効な資料を作成する。保育,教育関係者及び研究者に評価を仰ぎ,指摘に応じて修正を加える。更に,状況に応じて,K市内幼稚園,保育所・園,認定こども園の幼児を対象に,自然活動や自然物の捉え方に関連する実験調査やインタビュー調査を実施するとともに,K市内保育者を対象とする質問紙調査を実施し,科学の保育実践(あるいは自然体験活動)の評価,保育者自身が有する自然活動や自然物に対する概念,科学教育に対する認識について明らかにし,保育者の有する(素朴)概念と科学の保育実践との関連性について分析及び考察することも想定している。また,保育者を対象とする全国規模の研究会の科学分科会において,保育者とともに科学に関する保育実践の意味と内容について協議し,科学の保育実践の提案に資する情報を精緻化する。 (2)については,日本教育心理学会第64回総会(2022年8-9月,オンライン開催)でのポスター発表,日本発達心理学会第34回大会(2023年3月)でのポスター発表及びラウンドテーブルの開催を予定している。また,教員免許状更新講習や各種研修会において研究成果を紹介し,現場関係者に対して直接的に還元する機会を確保する。具体的には,東海北陸地区私立幼稚園協会教育研究愛知大会2022(2022年7月),石川県教員総合研修センター幼稚園教員等研修(2022年8月),金沢市保育士等キャリアアップ研修(2022年8月),石川県保育士等キャリアアップ研修(2022年9月)等が挙げられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響のもと,平成2(2020)年度に計画通りの研究推進が不可能となり,やむを得ず1年の遅延を設けて研究を継続し,現在に至る。平成3(2021)年度は,修正された研究計画に基づいて研究を進めた。新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置の公示を受け,幼稚園,保育所・園,認定こども園での観察調査,実験調査,インタビュー調査を,規模を縮小して実施した。日本心理学会第85回大会(ポスター発表)(2021年9月1-8日),日本発達心理学会第33回大会(ポスター発表,ラウンドテーブル)(2022年3月5-7日)において研究成果を公表したが,オンライン開催であった。平成2(2020)年度からの1年の遅延に加え,調査実施や成果公表の諸経費執行の抑制を踏まえ,科学研究費助成事業補助事業期間の延長を申請し,受理された。 令和4(2022)年度は,当初4年目の研究計画に基づき,(1)収集されたデータの分析と結果の考察及び記述,(2)成果の公開に取り組む。状況に応じて,幼稚園,保育所・園,認定こども園での調査を実施する。日本教育心理学会第64回総会(2022年8-9月)でのポスター発表,日本発達心理学会第34回大会(2023年3月)でのポスター発表とラウンドテーブル開催を予定している。以上に関わる諸経費の他に,研究に必要な資料の購入,論文執筆に要する諸費用の執行が考えられる。
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