研究課題/領域番号 |
18K02438
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野坂 祐子 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20379324)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 子どもの性行動 / 性的発達 / トラウマインフォームド・ケア |
研究実績の概要 |
子どもの性被害への支援のため性化行動や性問題行動等の反応を把握し、発達的特徴を考慮したトラウマインフォームド・ケア/システム(TIC)のモデルを構築する。3つの目的について、今年度の取り組み実績を報告する。 1)幼児及び児童の性的発達の様相の把握;幼稚園及び小学校の職員を対象とした質問紙調査とヒアリング調査を行う。初年度は、保育園と幼稚園、児童養護施設、児童相談所等の職員を対象とし、10歳以下の子どもに観察された性行動と職員の懸念等に関する質問紙調査を実施した(n-95)。 2)低年齢児に対する心理教育のあり方のレビューとマテリアル開発;マテリアル開発に向けて、初年度は文献整理と海外調査での資料収集を行った。米国で開催された子どもの性行動に関するシンポジウム(National Symposium on Sexual Behavior of Youth, 2018.June.26-28, at Center on Child Abuse and Neglect)に参加し、情報収集を行うとともに、他の日本人研究者との共同発表:Current status and issues of treatment efforts for problematic sexual behavior of youth in Japan. において、子どもの性行動への介入について発表した。また、英国での子どものトラウマケアとして、Halden Prison等の矯正機関での子どもへの配慮(収監された親との交流面接等)の取り組みを視察した。 3)幼稚園及び小学校での支援体制のあり方の検討と介入システムの構築;研究協力機関である女子児童の入所施設とのネットワーキングを図り、定期的な意見効果と今後の調査に関する準備を行った。 次年度では、アンケート調査及びヒアリング調査の対象をさらに拡大する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに構築された研究協力機関とのネットワーキングにより、調査への協力が得られやすく、アンケート調査およびヒアリング調査、児童福祉施設内での定期的なケース検討などを予定通り、実施することができた。また、本研究につながるこれまでの研究成果について、国際シンポジウムで発表したり、海外視察時に海外の研究者と意見交換を行うことで、研究テーマに関する新たな知見が得られた。初年度は、質問紙の作成や実施の開始、最終年度のマテリアル開発に向けた基礎的資料の収集が主であったが、次年度以降はさらにそれらの対象を拡大したり、具体的なマテリアル開発のための検討段階に入りたい。 質問紙調査は、10歳以下の子どもと接する教育・児童福祉領域に努める職員を対象にしており、個別の聴き取りも行っていることから、対象者の確保に時間を要する。そのため、質問紙調査の進捗が若干遅れており、現在分析中であることから、「当初の計画以上」とは言えず、おおむね予定通りの進捗状況だといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画はおおむね予定通りとし、大きな変更はないと考えられる。 上記の研究概要で示した研究の目的に沿って方策を挙げると、以下のようになる。 1)幼児及び児童の性的発達の様相の把握;現在、実施中の質問紙調査について、さらに対象者を拡大し、子どもの性行動に関するデータとそれに対する職員の懸念に関する量的及び自由記述データを収集し、分析を行う。 2)低年齢児に対する心理教育のあり方のレビューとマテリアル開発;心理教育はトラウマインフォームド・ケアの実践における重要な要素であり、さまざまな性的課題をもつ子どもと養育者に対する情報提供は介入の基本となる。子どもの年齢不相応な性行動化(sexualized behavior)は、性的虐待等の被害の兆候とみなされることもあり、再被害や他児への加害にもつながりうるため、正しい理解と適切な対応が求められる。幼児や児童に対するトラウマの影響としての行動化についてレビュー研究を行い、それに基づいた心理教育のマテリアル開発の準備を行う。具体的には、レビュー論文の発表とマテリアルの試作版の作成及びその評価を行う。 3)幼稚園及び小学校での支援体制のあり方の検討と介入システムの構築;すでに協力関係にある児童福祉施設を中心に、性行動化のある子どもへの組織的対応のあり方を検討する。昨年度のヒアリング調査では、職員の性に対する抵抗感や苦手意識、知識や情報のなさにより、十分な対応ができていないこと、そして職員個人の理解や対応となりがちで、組織全体として体系的に教育やケアが提供できていないことが課題として抽出された。 引き続き、対象機関の拡大や調査継続を行い、介入の方向性を提言するための資料収集を行う予定である。
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